今回の新型コロナウイルス騒動で、微生物による感染がどれだけ恐ろしいものかを日本社会は知ることになりました。しかし、こうしたシナリオは以前から研究者の間ではずっと議論されていたもので、やっと一般社会に出てきたな、というのが実感です。
2016年に、オニール・レポートという衝撃の予測がイギリスで発表されました。現在、がんは世界で多くの死者数をもたらしていますが、2050年には、これを薬剤耐性菌(AMR)による死者数が上回るというものです。近年行われた薬剤耐性菌の調査結果は、日本人にとって悲観的なものです。肺炎球菌のペニシリン非感受性率では、日本は世界でトップになりました。1928年のイギリス・フレミング博士の抗生物質の開発以来、日本は抗生物質の開発で世界でもトップに近い位置にいたことを考えると、この調査は皮肉な結果でもあります。今後、日本でも、薬剤耐性菌による病院内での死者数が増加していき、我々が最も死を恐れるべきは、がんなどの生活習慣病ではなく、薬剤耐性菌というシナリオが現実のものになりそうです。がんなどの生活習慣病はこの40年ほど米国を筆頭に十分にその原因が解明され、対策がとられてきましたから、当然といえば当然の結果です。さらに今回の新型コロナウイルスでもそうでしたが、近隣諸国で薬剤耐性菌が発生し、日本を脅かす可能性もあることから、国際連携も重要になってくるでしょう。
新型コロナウイルスを始め、他のウイルスや薬剤耐性菌など、我々は今後も微生物から逃れられず、うまくつきあっていくしかなさそうです。平時こそ、微生物との闘いに備えましょう!(おわり)