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主演男優賞ー笑福亭鶴瓶「ディア・ドクター」

笑福亭鶴瓶
医者役の好演で主演男優賞に輝いた笑福亭鶴瓶(撮影・蔦林史峰)
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【受賞発表記事】

 落語家笑福亭鶴瓶(57)が初主演した映画「ディア・ドクター」で、主演男優賞を獲得した。幅広いジャンルで活躍してきた鶴瓶だが、役者としては初めての受賞だ。28日に東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われる授賞式で、裕次郎夫人のまき子さんから賞金300万円が贈られる。

 「こんなにうれしいことはないよ。主演やって良かった。役者としての賞? 初めて初めて! 00年に上方お笑い大賞もらったけど、賞といえばそれくらい」。取材場所に向かうエレベーターの中から、鶴瓶は喜びを口にした。

 最初はタレントとして全国区になり、司会もこなし、ここ数年は落語家としても大きなツアーを成功させるなど、多岐にわたり第一線で活躍してきた。本格的に映画に出演したのは90年の「東京上空いらっしゃいませ」。以降、ドラマも含め、役者としても活動の幅を広げた。

 山間部にいるたった1人の医者が、ニセ医者だった―。「ディア・―」は肩書とは、人間の本質とは、を問い掛けてくる。多くの肩書を持つ鶴瓶だが、選考会では「役者・鶴瓶」の評価は圧倒的だった。「怖いくらい」と評した選考委員もいた。それでも鶴瓶は「こないだ空港で、男の人に『映画の鶴瓶さんが好きです』ってぼそっと言われたんですよ。そんな限定せんでええやん」。この気負いのなさが魅力的だ。

 鶴瓶は、自分の魅力について「分かりやすくない」と分析した。バラエティー番組などで、めがねの奥の瞳は本当は笑っているのか、と言われることも多い。「謎なことも必要やと思うんです。キャベツみたいに、むいてもむいてもよう分からんみたいに、ほんまはどんな人なんやろうって。自分でもよう分からん。『ディア・ドクター』に使いたいと思ってくれたのも、謎とのりしろがあったからやと思います」。

 作品に参加する上で、大切にしていることがある。「監督がどんなトーンでいきたいかを早く察知すること」だという。宮藤官九郎脚本のドラマ「タイガー&ドラゴン」では最初、落ち着いた芝居をする自分だけが、ハイテンションな周囲から浮いていた。気付いた鶴瓶は、キャラクターが変わるほど「後から、ガァーいったった」そうだ。いわく「『あの人うまいね』なんて見抜かれたら終わりですからね。その時点でうまくないってことですよ。監督のタクトに合わせることが大事」と強調する。

 芝居や映画について理論を語れるのは、落語があるからだ。「落語は僕が監督で演者ですから。想像の中で照明も調節してる。すばらしい映画やと思うよ」。 「ディア・―」は小規模公開ながら、興行的にも成功を収め、賞も取った。しかし、「東京上空―」で出会い親友になり、今回の作品を企画した安田匡裕(まさひろ)さんが、今年3月に急逝してしまった。「試写を見たやっさんが僕に『これいいぞ、主演男優賞か何か取るぞ』って言うたんです、ほんまに。今こうなってみると、死ぬなよって…」。予言を残してくれた親友は、大分県に眠っている。年明け早々にも受賞報告に行くつもりだ。

 来年は、山田洋次監督作で、吉永小百合と共演した「おとうと」が公開される。今後も役者・鶴瓶が期待されるが「西川監督や山田監督、共演者の皆さんに敬意を表する意味で、本当に納得いかない限り、もう映画は…って思うんです。でも、吉永さんが『夫婦役やりましょう』って言ってくれるんです。時代劇での夫婦なんてええなあって思ってます」と笑った。映画界がほっておかない存在になった。【小林千穂】

[2009年12月4日 紙面から]

 ◆笑福亭鶴瓶(しょうふくてい・つるべ)本名・駿河学。1951年(昭和26)12月23日、大阪生まれ。72年に6代目笑福亭松鶴に入門。テレビやラジオなどで人気になり、第一線で活躍。落語では東西、協会を超えた「六人の会」のメンバー。07年「鶴瓶のらくだ」ツアーで全国を回り成功を収め、来年WHITEツアー第2弾を行う。役者としては、来年1月30日に山田洋次監督、吉永小百合共演の「おとうと」が公開。テレビのレギュラー番組は「鶴瓶の家族に乾杯」「笑っていいとも!」「ザ!世界仰天ニュース」「A―Studio」など多数。

 ◆「ディア・ドクター」 山あいの小さな村にある診療所。唯一の医師、伊野治(笑福亭鶴瓶)は村人から慕われる存在だ。看護師の大竹(余貴美子)と訪問診療に走り回る日々を送っている。都会から赴任してきた研修医の相馬(瑛太)は戸惑いながらも、伊野を尊敬するようになる。そんな中、伊野は診療を拒む鳥飼かづ子(八千草薫)のことが気にかかっていた。

主演男優賞・選考経過
 笑福亭鶴瓶、「劔岳」の浅野忠信、「沈まぬ太陽」の渡辺謙が候補に上がった。「『ディア・ドクター』の主演は、鶴瓶さん以外、想像できない。08年『母べえ』のおじさん役も、いい演技をしていた」(梅沢道彦氏)「渡辺さんが良かった。組合長の演技は、ほれぼれした。大きなスケールを感じた」(神田紅氏)。投票の結果、鶴瓶が大きく過半数を上回った。
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石原裕次郎賞・石原裕次郎新人賞とは
 1987年(昭和62)に亡くなった、戦後を代表するスター石原裕次郎さんの遺志を引き継ぎ、日刊スポーツ映画大賞に併設。石原プロモーションが運営に全面協力している。その年に最もファンの支持を得て、スケールの大きな作品に贈られるのが石原裕次郎賞。裕次郎さんをほうふつとさせる将来性豊かな、映画デビュー5年以内の新人に贈られるのが、石原裕次郎新人賞(今回は該当者なし)。賞金は各300万円、100万円。




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