監督賞は「スパイの妻」の黒沢清監督(65)が受賞した。9月にベネチア映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した“世界のクロサワ”は「日本のお客さまに向けて映画を作っているので、国内で評価されてとても励みになります」と話す。
東京芸大大学院の教え子である浜口竜介、野原位の両監督が脚本を書き、持ち込んだ。師弟愛が実を結んだ形だ。「引き受けたのは脚本が面白かったから。よくぞ僕に持ってきてくれた」と笑顔で語り「絶対実現させようという欲望を共有できた。本当は、仕上がって映画館で公開されただけで100%満足」と話す。
開戦前夜の1940年、国家の秘密を知った貿易商夫婦のラブサスペンス。「戦争の時代を扱いながら、サスペンスとメロドラマの娯楽性がきちんとあるのがこの作品の素晴らしいところ」とし、夫婦間のだまし合いを緻密に演じた蒼井優、高橋一生をたたえた。
コロナ禍で、エンタメ界が「不要不急」の文字に悩み抜いた1年だったが、「鬼滅の刃」の大ヒットを例に、悲観していない。「作品の力とはいえ、一般大衆は不要不急なものをこんなに欲しているんだと露骨に分かったことは痛快。自分も皆さんに喜んでいただけるよう、若々しく撮り続けたい」と話している。【梅田恵子】
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◆黒沢清(くろさわ・きよし)1955年(昭30)7月19日、兵庫県生まれ。立大時代に8ミリ映画製作を始め、88年「スウィートホーム」で初めて一般商業映画を手掛ける。「CURE」(97年)以降、ホラーサスペンスの分野で世界的な注目を集め、「トウキョウソナタ」「岸辺の旅」「散歩する侵略者」など話題作多数。今年9月「スパイの妻」でベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞。東京芸大大学院映像研究科映画専攻教授。
◆「スパイの妻」 太平洋戦争前夜の1940年(昭15)の神戸で、貿易会社を営む福原優作(高橋一生)は満州に赴き偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまい、正義のため事の経緯を世に知らしめようとする。一方、優作の妻聡子(蒼井優)は、ひそかに満州から謎の女を連れ帰り、油紙に包まれたノートやフィルムを持ち込むなど、別の顔を見せる夫に疑問と不安を抱くも、夫婦愛から行動をともにしようと決意する。
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▽選考経過・監督賞 今年亡くなった大林宣彦監督が手掛けた「海辺の映画館 キネマの玉手箱」について議論が交わされた。河瀬直美監督、黒沢清監督も交え接戦となり、3回目の投票で黒沢監督が過半数獲得。
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★昨年「宮本から君へ」で監督賞を受賞した真利子哲也監督(39) 監督賞受賞おめでとうございます。東京芸大で黒沢監督のご指導を受けていた私はこの場にコメントを寄せるだけで気が引き締まります。脚本の浜口監督、野原監督も並々ならぬ思いだったと思います。円熟の域に達する監督の挑戦はいつも映画の可能性を教えてくれます。さらなるご活躍を楽しみにしています!