特別賞には、今年8月10日に亡くなった渡哲也さん(享年78)が全員一致で選出された。裕次郎さん亡き後の石原プロモーションを支え、96年「わが心の銀河鉄道・宮沢賢治物語」で助演男優賞を、97年「誘拐」で主演男優賞を受賞した。舘ひろし(70)が代理受賞し、思い出を語った。
舘は渡さんのことを「羅針盤のない舟にとっての北極星。道しるべを示してくれる」と話した。常に渡さんならどうするか、を考えてきた。
取材の数日前に渡さんの夢を見たと明かした。「実は生きてた、という夢でした。『何ですかお館(やかた)、うそついて。うそのお葬式出しちゃったじゃないですか』と言いました。心の片隅で生きてるので夢に出てきたんじゃないかな」と、うれし寂しい笑みを見せた。多くの言葉は交わせなかったが、舘は「もらえるものはもらっておこうって言うかも」と、賞への渡さんの反応を想像した。
舘は、渡さんの映画俳優としての魅力を「スクリーンの中に立った時、画面を支える力がある。真ん中にどんと立てる」と話した。実在やくざを主人公にした「仁義の墓場」(75年)の躍動感にも驚嘆した。
渡さんは脚本を読む力にもたけていた。舘は「ビジュアライズできて、おもしろいかどうか、どう直せばいいか分かる。ホン(脚本)が読める人はなかなかいない」と説明した。判断力が高いからこそ映画製作のハードルが高くなったのかもしれない。ハワイで海を見ながら映画への思いを語ったこともあったそうだが、実現しなかった。舘は「僕はいつか映画を作りたい。(報告したら)悔しがるかも」。
渡さんの教え「芝居をするな」の意味は、その場の演技ではなく生きざまそのものを見せろ、ということ。渡さんが背中で見せた生きざまは、多くの者を照らしている。【小林千穂】
◆渡哲也(わたり・てつや)本名・渡瀬道彦。1941年(昭16)12月28日、兵庫県淡路島生まれ。青学大卒業後、64年に日活入り。65年映画「あばれ騎士道」でデビュー、05年「男たちの大和/YAMATO」まで、90作近い映画に出演。71年、石原プロモーションに入社し、ドラマ「大都会」「西部警察」などに出演。石原プロでは副社長を経て、裕次郎さんの死去に伴い、87年に社長に就任、11年まで務めた。歌手としても「くちなしの花」などのヒット曲がある。20年、肺炎のため死去。