世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画史上初の脚本賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」が作品賞と西島秀俊の主演男優賞の2冠に輝いた。50歳の節目を迎え、初の栄冠に輝いた西島は「全員の人生をかけるタイミングが合った作品」と強調した。
◇ ◇ ◇
受賞の喜びを聞くと西島は開口一番「第1回、渥美さんなんだと。そうそうたる皆さんが受賞した賞。非常にうれしい」と笑みを浮かべた。1988年(昭63)の第1回受賞の渥美清さんから連なる系譜に名を連ねたことを再確認するように、自ら口にした。
「ドライブ・マイ・カー」について「濱口監督にとって集大成のような作品だと聞いた。(俳優陣も)リハーサル段階で運命的なものを感じていたと思う。全員の人生をかけるタイミングが合った作品」と評した。
その象徴的かつ濱口監督ならではの取り組みが「本読み」だ。俳優陣が集まり、感情を入れずに台本を読み、せりふを体内に落とし込む。次第に台本の外にある役の人生を考え始め、書かれていない状況の中で役が何を思い、どう行動するかを俳優同士が話し合い、即興で演じるまでになる。
感情を表に出さない舞台演出家の役を徹底的に掘り下げ、感情を体内に満たして演じた。舞台の場面では濱口監督から「本当に演出して下さい」と言われ「自分が見ることで役者が変わるという意識」で、俳優役の岡田将生らを見つめて演じた。「俳優がどうやったらその人物になりきれるか、時間とエネルギーを最大限に割く幸せな現場」を経て本読みは習慣となった。
「何のために人が生きているのか、実際に生きてみることで答えを見つけていく」ことに魅力を感じ、俳優を始めて30年。愛する映画の世界の先端を知ろうと、小規模なアート系の映画を主戦場にしてきた。「本当に遅咲き、遠回りしてきた人間。40代、50代で、ようやく形になりつつある」と語る今「きのう何食べた?」のようなエンターテインメント作品や大作からも引く手あまたの存在となった。「スタートラインに立たせていただいたと、受賞で改めて実感しています。ゲキを頂いたと思い、もっと素晴らしい映画に参加できるよう精進したい」。西島の先には、輝ける映画の大海原が広がっている。【村上幸将】
◆選考経過・主演男優賞 「どんな映画にも出て映画愛がある」(福島瑞穂氏)「3時間の長さを感じさせない演技力」(品田英雄氏)と評された西島と「肉体を使いながら殺陣をつける俳優が出てきた」(笠井信輔氏)と評された岡田准一が1回目の投票で並び、2回目を西島が制した。
◆西島秀俊(にしじま・ひでとし)1971年(昭46)3月29日、東京生まれ。横浜国大工学部在学中に俳優デビューし、94年「居酒屋ゆうれい」で映画初出演。30日公開の「99・9-刑事専門弁護士-THE MOVIE」、来年5月13日公開の「シン・ウルトラマン」に出演。
【関連記事】日刊スポーツ映画大賞受賞者一覧
◆「ドライブ・マイ・カー」 舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島)は妻音(霧島れいか)が秘密を残し亡くなった2年後、演出を任された広島の演劇祭に愛車で向かう。寡黙な運転手渡利みさき(三浦透子)と過ごし、目を背けたことに気付かされる。
◆「きのう何食べた?」 弁護士の“シロさん”こと筧史朗(西島)と恋人の美容師の“ケンジ”こと矢吹賢二(内野聖陽)は男2人暮らしをしている。史朗の提案で、賢二の誕生日プレゼントで行った京都旅行をきっかけに互いの心の内を明かすことができなくなる。
昨年「罪の声」で主演男優賞を受賞した小栗旬(39) 西島さん、受賞おめでとうございます。映画が大好きで映画のためにいつも身を粉にして頑張っている西島さんのような方がいただくべき映画の賞だと思います。「ドライブ・マイ・カー」は世界各地でいろいろなムーブメントをおこしている作品だと思うので、主演である西島さんが評価されることはすごく素晴らしいことだと思っております。今後も日本映画のため、さまざまな作品を作っていってください。