<日刊スポーツ映画大賞:主演女優賞・吉永小百合(北のカナリアたち)>◇28日◇ホテルニューオータニ
第25回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)の授賞式が行われた。吉永小百合(67)が「北のカナリアたち」で、12年ぶり3度目の主演女優賞を獲得。渡哲也(71)からサプライズで花束を贈られ、感激の表情を浮かべた。かつて日活黄金期を支えた2人はそろって「いつか夫婦を演じたい」と共演を熱望した
吉永が驚いた。前年受賞者の宮崎あおい(27)から盾を受け取り、共演した子役の飯田汐音(11)小笠原弘晃(11)から花束を贈られて穏やかにほほえんでいた、その時だった。「もうおひとかたから花束が贈られます。渡哲也さん」。司会の呼びかけと同時に渡がさっそうと現れると、口を小さく開け、目を大きく開いた。持っていた花束を落としてしまうハプニングもあったが、渡がすかさず拾い上げた。2人の目が合った。400人以上の映画関係者が見守る中、壇上が一瞬、2人の世界になった。
渡の登場はサプライズだった。「美貌だけじゃなく人としても美しい」と言われると、ほおを赤く染めて照れた。「花束を下さるって知らなかったので。ちょっとびっくりしました」。
2人は今も年に1、2度、日活時代の俳優仲間と一緒に食事をするなどして旧交を温めてきた。「北のカナリアたち」公開後、吉永は渡から電話をもらった。「『映画を見て、とても良かった』って言っていただいた。とてもうれしかったです」。
女優生活55年を迎えた吉永が、新境地を開いた作品だった。助演男優賞の森山未来(28)ら主役級の若手6人と初共演した。場面によっては若手の存在感を引き立てる役回りも引き受けた。こうした挑戦を自然に評価してくれた言葉がうれしかったという。
「年を重ねるごとに役は難しくなるし、より深く演じられないと」。今後について聞くと、言葉は慎重になるが、実は熱望するプランもある。米女優キャサリン・ヘプバーンと米俳優ヘンリー・フォンダが共演した名作「黄昏」(81年)のような年齢を重ねた夫婦を描く作品で渡と共演することだ。実は渡からも、名作「喜びも悲しみも幾歳月」(57年)をイメージした「夫婦で1つの仕事をやってきた歴史を描いたもの」という共演プランを提案されているという。
2人は66年「愛と死の記録」で初共演したが、日活を離れて以降、映画共演は99年「時雨の記」と00年「長崎ぶらぶら節」の2本だけ。実現すれば、都市部の映画館を中心に、その客層の主流になりつつあるシニア層の心を打つ名作の誕生に期待がかかる。吉永は「日活を離れてからご一緒したのは、両方とも思い合っているけど結ばれない役だった。いつか、れっきとした夫婦の役をやりたいです」。日活100周年のタイミングでかなったこの日のステージ共演。夢はスクリーン共演に膨らんだ。【村上幸将】
◆北のカナリアたち
日本最北の島にある麗端小学校岬分校の教師、川島はる(吉永小百合)と生徒6人の間で悲劇的な事故が起きた。はるは夫を亡くして島を追われ、「天使の歌声」を持つ生徒たちもまた罪の意識を抱えて生きていた。20年後、はるは都内の図書館で司書をしていたが、教え子の鈴木信人(森山未来)が事件を起こしたと知ると、北海道へ渡り、教え子を相次いで訪ねる。阪本順治監督。
◆吉永小百合(よしなが・さゆり)1945年(昭20)3月13日、東京都生まれ。59年「朝を呼ぶ口笛」で映画デビュー。62年「キューポラのある街」でヒロインを演じ、同年「いつでも夢を」で日本レコード大賞受賞。06年に紫綬褒章。84年「天国の駅」と「おはん」、05年「北の零年」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。