<日刊スポーツ映画大賞:主演男優賞・松田龍平(舟を編む)>◇28日◇ホテルニューオータニ

 第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)の授賞式が行われた。松田龍平(30)が「舟を編む」(石井裕也監督)で初の主演男優賞を獲得。表彰のステージでは父松田優作さん(享年39)のまなざしを感じながら、さらなる飛躍を誓った。

 松田は、ステージでスポットライトを浴びながら、温かいものを感じていた。それが父優作さんからの何かであると、気付いた。「何か…まなざしというか、そういうものを感じました。その真意は、分からないですけど、そういう感じが、すごくうれしい気持ちになれました」。

 映画関係者400人以上が視線を注ぐ表彰セレモニー。シャイな性格もあって舞台あいさつが大の苦手のはずだったが「思ったより緊張しなくて」。受賞スピーチも柔らかな表情と自然な口調が印象的だった。父がそっと背中を押してくれた気がした。

 前年受賞の高倉健(82)に代わってプレゼンターを務めた降旗康男監督(79)は優作さんのドラマ「俺たちの勲章」の演出を手掛けた。「おやじさんに似ているけど、違った方向で乗り越えていってほしい」。重圧に負けないで成長してほしいと励まされると、少し照れたような表情で「どう言えばいいか分からないけど、頑張ります」と答えた。優作さんをよく知る東映・岡田裕介社長からは「血が騒いだのか大変すばらしい俳優になった」と絶賛された。「父と仕事してる人たちと会った時に、同時に父を見ているまなざしを感じて、それもうれしかった」。

 故大島渚監督の99年「御法度」でデビュー。自身の俳優人生と同じ15年をかけて辞書作りに打ち込んでいく主人公・馬締光也という役と出会った。「これだけは譲れないものを自分で確認することが必要だと思った。それは演じることで作品世界を成立させること」。

 現在30歳。今年は「舟を編む」に加え、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の水口琢磨役でファン層と演技の幅を広げた。優作さんも30歳の時、ドラマ「探偵物語」で見せたコミカルな演技によって、それまで強かったニヒルなアクション俳優という印象を大きく覆した。

 松田は今、映画へのこだわりを強めている。「15歳のただの子供だった僕が、初めて大島さんに呼んでいただいて、この世界に入ったのが映画。僕にとっては勇気づけられるルーツみたいなもの」。主演男優賞受賞でその思いはさらに強まった。「もっとやってくれよ、と背中を押していただけた。頑張ろうと思った」。決意の言葉は優作さんにきっと届く。【村上幸将】

 ◆松田龍平(まつだ・りゅうへい)1983年(昭58)5月9日、東京都生まれ。優作さんの長男。高1の99年に映画「御法度」でデビュー。同作で映画賞新人賞総なめに。07年NHK「ハゲタカ」で連続ドラマ初出演。09年1月に太田莉菜と結婚して同7月に長女誕生。183センチ。血液型B。

 ◆「舟を編む」

 定年退職する編集者荒木(小林薫)に代わり、営業部内で変人扱いされた馬締光也(松田)が後任で加わった玄武書房辞書編集部は、監修の松本(加藤剛)を軸に新辞書「大渡海」の編集に取りかかった。略語、若者言葉なども取り入れ新たな辞書を目指す中、馬締は辞書作りに没頭する一方で、下宿「早雲荘」の大家の孫で板前修業中の香具矢に一目ぼれ。そして「恋」の語釈を作るよう命じられる。