<日刊スポーツ映画大賞:助演女優賞・伊藤蘭(少年H)>◇28日◇ホテルニューオータニ
助演女優賞を初受賞した伊藤蘭(58)が、壇上で感激の涙を流した。「うれしくて、とても胸がいっぱいです」。32年ぶりの映画出演で不安もあったが、夫婦役で共演した夫の水谷豊(61)のバックアップもあって母親を好演。この日は「(水谷と)一緒にもらったつもりで受け止めています」と夫に感謝した。
前年受賞者の樹木希林(70)から表彰盾を贈られた伊藤は、目に涙をため、後ろ向きになって、目をぬぐった。「とてもうれしいです。(受賞を)心から感謝して、胸がいっぱいです」と受賞を喜んだ。
映画出演は32年ぶり。夫の水谷豊の勧めもあり、夫婦役で共演したが、不安もあった。しかし戦中戦後の激動期に温かく家族を包み込む母親を演じて評価を受け、初の助演女優賞につながった。「『少年H』は大人はもちろん、日本中、世界中の子供たちに見ていただきたいと堂々と言える作品です」と自信をみせた。同作は戦争で家族がほんろうされる姿を描いた。「こういう作品が少なくなっている中、貴重な映画だと思うから、見てほしい。そんな映画の一端を担うことができて幸せです」。
称賛の言葉が続いた。原作者妹尾河童氏(83)は「80歳になる妹が映画を見て『お父ちゃん、お母ちゃんに会えた。しゃべり方もソックリ』と泣いた。本当にいい映画だった」。樹木も「キャンディーズで歌手活動をしていた時、私も郷ひろみにくっついて歌手活動をしていた。それから30年、(伊藤が)こういう姿になって、人生って味なものだと思いました」。伊藤も「希林さんとご一緒したことがなく、ぜひ一緒にやらせてください」と共演を熱望した。
石原まき子さんは、水谷と伊藤の夫婦共演をうらやましがった。「私も裕次郎さんと20本以上の映画で共演しましたが、夫婦になってからは1本もなかった。蘭さんがうらやましい。これからもたくさん共演なさってください」。伊藤は今回の受賞について「(水谷と)一緒にもらったつもりで受け止めています。合う作品があれば、また共演したい」と話した。
授賞式を楽しみにしていた。花束贈呈で駆けつけた少年H役の吉岡竜輝(13)と長女役の花田優里音(9)とは公開初日舞台あいさつ以来の対面となった。「数カ月ぶりだったけれど、大きくなっていた。会えてうれしかった」と母親の笑顔を浮かべた。来年もドラマ、舞台出演が決まっている。「女優になって35年。形となって賞をいただくと実感もわくし、励みにもなります。来年も新しい出会いが楽しみです」。【林尚之】
◆伊藤蘭(いとう・らん)1955年(昭30)1月13日、東京都生まれ。69年に東京音楽学院に入学。田中好子、藤村美樹の3人で72年にキャンディーズを結成し、73年に歌手デビュー。数々のヒット曲を残し、78年の解散後に引退。80年3月に女優として復帰し、81年にゴールデン・アロー賞演劇新人賞を受賞した。82年の日本テレビ系ドラマ「あんちゃん」で共演した俳優水谷豊と89年に結婚。長女趣里も女優。
◆「少年H」
妹尾河童氏の自伝的小説の映画化。昭和初期の神戸。洋服の仕立てで生計を立てる父(水谷豊)と、愛情あふれる母(伊藤蘭)のもと、平凡ながら幸せに暮らすH(吉岡竜輝)ら家族が、太平洋戦争で運命をほんろうされる。仕事上、外国人との付き合いもある父はスパイ容疑をかけられ、妹(花田優里音)は疎開に出される。やがて空襲で焼け野原になった神戸で、家族は力強く再出発を誓う。