<日刊スポーツ映画大賞:作品賞・石井裕也(舟を編む)>◇28日◇ホテルニューオータニ
「舟を編む」で作品賞を受賞した石井裕也監督(30)は「素晴らしい賞をいただき、大変励みになります」と素直に喜んだ。映画作りは大変でつらいこともあるとしたが「松田龍平さんもいたし、素晴らしいキャスト、スタッフの方と一緒に仕事ができて最高に楽しかった」と話した。
主演の松田とは同い年。主演俳優と同い年の仕事に壇上では「やりづらい」と、ドキッとさせる言葉を口にしたが、実は真意ではなかった。表彰式後に「冗談ですよ」と笑った。「お互いの意見をぶつけあった局面はいくつかありました。それは2人でいい映画を作ろうという気持ちからです。2人で一緒に闘って作り上げた作品なんです」。実際には“戦友”だからこそ出てきた言葉だった。
これまでオリジナル作品にこだわってきたが「舟を編む」で初めて原作の映画化に挑んだ。「いいタイミングで出合えるのが、原作かオリジナルか、俳優か分かりませんが、その力を借りて、その時の流れで決めていいと、今思うようになりました。今は自由な感じ」。さらに「出会いでどう反応するか、その時の自分が楽しみ。こうと決めない方が面白いという予感がしています」とスタンスの広がりを実感している。
表彰式では前年受賞者でプレゼンターを務めた周防正行監督(57)から盾を受け取り、「舟を編む」出演者の森岡龍(25)から花束を贈られた。【中野由喜】
◆石井裕也(いしい・ゆうや)1983年(昭58)6月21日、埼玉県生まれ。大阪芸大の卒業前に「剥き出しにっぽん」を製作し、07年の「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリと音楽賞を獲得。08年の「アジア・フィルム・アワード」でエドワード・ヤン記念アジア新人監督賞を受賞。09年に「川の底からこんにちは」で商業映画デビュー。11年にブルーリボン賞監督賞を最年少で受賞。10年に満島ひかりと結婚。
◆「舟を編む」
定年退職する編集者荒木(小林薫)に代わり、営業部内で変人扱いされた馬締光也(松田)が後任で加わった玄武書房辞書編集部は、監修の松本(加藤剛)を軸に新辞書「大渡海」の編集に取りかかった。略語、若者言葉なども取り入れ新たな辞書を目指す中、馬締は辞書作りに没頭する一方で、下宿「早雲荘」の大家の孫で板前修業中の香具矢に一目ぼれ。そして「恋」の語釈を作るよう命じられる。