6度目のSR(Super Randonner=シューペル・ランドヌール(仏)、スーパー・ランドナー(英))を狙い、10月23日にランドヌ東京のブルベ「ぐるっと関東1周600キロ」に参加。神奈川・川崎の武蔵中原駅付近を23日午前4時に出発。東京を横断し、千葉は富津まで南下。房総半島を横切り、一宮海岸からは九十九里ビーチラインを走り、午後4時43分に241・9キロ地点の銚子駅に到着した。
ここまでで貯金は3時間半とほぼ予定通りのペース。このままトラブルなく行けば、仮眠用に予約している90キロ先の水戸のホテルには午後10時前後と普通の時間につけそうだ。仮眠も3時間ほどとれるかもとほくそ笑んでいた。
補給もあったので銚子駅前には30分弱滞在。暗くなり始めた午後5時ごろ、北へ向けて出発。まずは利根川を全長1・2キロの銚子大橋で渡り茨城県へと入る。「側道から歩道へ」とキューシートにあるのを橋の直前で気がついた。自転車通行不可ではなかったのでそのまま直進するつもりだったが、もし行っていたら路肩も狭いし見晴らし良すぎるし(高所恐怖症)、長いしで、とんでもないことになっていただろう。ただ、歩道が反対車線にしかなく、その入口も暗かったせいもありたどり着くまでに少し苦労した。
「もう少し明るいうちに通りたかったな」などと思いながら銚子大橋を渡り終え、反対車線に渡って国道124号を走る。路肩は狭いというかほとんどないのに、交通量は多い。この道をひたすら25キロも真っ直ぐに進んで行かなければならないと思うと、気が滅入る。おまけに向かい風。ここでも不屈の精神が試されるのか。
午後6時半ごろ、神栖で左手に牛丼店を発見。ようやく座って食事することができた。だが、腹は減っているのだがなかなか喉を通らず、並盛りなのに完食するのに四苦八苦。固形物は受け付けなくなっているようだ。
鹿嶋に入った274キロ地点で退屈だった国道124号とはやっとお別れ。北浦沿いの県道を行く。車の通行量はガクンと減り、道の周辺も暗さを増す。賑やかだった国道から一気にひっそりとした田舎道となった。信号がないのはありがたいが、今度はこの道を28キロ進む。左手には北浦が横たわっているはずだが、真っ暗で何も見えない。眠気を誘う変化のない道を強さを増してきた向かい風と戦いながら進むが、耐えきれなくなり県道に入って24キロ地点のコンビニで小休止。気持ちを整え直した。
時刻は午後9時20分。スタートからの距離は約300キロ。かなり眠い。水戸のホテルまではあと30キロ。ここからは睡魔に打ち克つ不屈の精神が試される。
コンビニ前ののぼりは強烈な向かい風でちぎれんばかりにはためいている。その風に向かって漕ぎ出した。この先の鉾田一高付近で何度か曲がるが、鉾田警察からは17キロ真っ直ぐに進む。あぁ…(T_T)。
324キロ地点の通過チェックのコンビニ到着は午後9時53分。グロスの平均速度は18・1キロ。貯金は3時間43分とあまり増えていない。向かい風のせいか。だが、ペースは予定を少し上回っている。
睡魔と戦いながら330キロ地点の水戸のホテルに到着したのは午後10時36分。手前のコンビニで飲料とエクレアを買い込み、自転車ごと部屋へ。サイクリストにやさしいホテルで助かった。
この時点で貯金は3時間半。シャワーを浴び、起きたらすぐ出発できるように着替えを準備し、午前1時半に目覚ましをセットした。睡眠時間は約2時間。貯金ゼロからの後半開始となるが、グロス平均時速15キロを上回れば完走できるので難しい話ではない。
さて、気になる天気。夜のうちに雨が降るという予報だったが、ここまでは嬉しい「降る降る詐欺」で雨粒は落ちてきていなかった。だが、ウエザーニュースによると深夜から水戸は雨マーク。この先の宇都宮ではすでに降っている様子だった。「まあ、降ったら降ったで。それにオレは晴れ男だし大丈夫」と都合良く自分に言い聞かせて眠りについた。
しばらくは眠れなかったが、いつの間にか……ZZZZZ。
目覚ましが鳴る少し前の午前1時ごろに目覚めた。外を見ると雨は降っていない様子。よし、行けるぞ(^o^)。
気温は前日の昼間は30度近くまで上がったが、水戸の午前1時の気温は13度。これから明け方にかけてもっと冷え込んでくるので、アームウオーマー、長袖インナー、長袖ジャージ、レッグウオーマー、ウインドブレーカーと防寒対策として持ってきている全てを着込む。そしてもしもに備え、レインウエアと防水グローブも。ただし、サドルバッグの容量の関係でレインウエアは上着のみ。パンツとシューズカバーは持ってきていない。
午前2時ごろにホテルを出て走り出す。すると、すぐに頬に細かな水滴が当たる。降っているかいないかのような細かい霧雨。路面も濡れるほどではない。このままいつの間にかやんでくれるといいな。希望的観測のもと、走り続ける。
30分ぐらい走って腹が減ってきたのでコンビニでおにぎりタイム。ところがトイレを済ませて外に出てみると、あ然。やむどころか雨は本降りとなっていた。路面が一気に濡れていく。信じられん(T_T) といっても予報通りなのだが……。
ここで雨宿りしているヒマもないので自転車にまたがり先へ進む。
しばらく走ると、下半身は靴下までびしょ濡れとなった。ホテルの暖かい部屋が恋しい。天気予報を信じてリタイアを決めていれば、今ごろはぬくぬくの布団の中でまだ眠っていただろう。引き返そうかとも思ったが、すでに水戸からは20キロ以上走っているので無理だ。
やがて街灯もない真っ暗な山道となる。深夜とあって車も滅多に通らない。たまに追い越していくトラックが豪快に水しぶきを体に浴びせてくる。勘弁してくれよ。
栃木との県境にさしかかったころ、雨は小降りとなりやみそうな気配となってきた。少しだけ希望の光が見えてきた。このままやめば行けるかも。気を取り直して漕ぎ続けた。靴下はびしょ濡れのままだが、レーパンとレッグウオーマーは多少乾きつつあった。
だが、自然は容赦してくれない。雨は再び本降りとなる。夜明けが近づき、気温も10度を切った。寒さが身にしみてきた。思わず震える瞬間もあった。もう体の限界か。「生きて帰れるのか」。真っ暗な山道をひとりで走りながら、そんな思いが頭の中に浮かぶようになった。
スピードも上がらない。時速20キロ以上を出すと寒く、下りでも踏み込めない。これではとてもじゃないが間に合わない。
「このまま走り続ければ絶対に風邪を引く。やめよう」。そう決断し、新幹線輪行ができる宇都宮を目指し、そこでリタイアすることにした。といってもまだ30キロ近くある。そこまでは頑張るしかない。
夜が明けて車の量も多くなり、本降りの雨に加え、追い越す車の水しぶきを浴びながら必死でペダルを回した。宇都宮まであと20キロの表示が出た時、冗談じゃなく「生きて帰れた」と思ったよ(^_^; ちょうど道の駅「サシバの里いちかい」があったので、寒さを一時でもしのぐため多目的トイレへ自転車ごと逃げ込んだ。便座に座るとほんのりと暖かい。生き返る思いだった。ついでに足を拭いて新しい靴下をはいたが、シューズがびしょ濡れなのでこれはあまり意味はなかった。
「サシバ」って何だろう? とその時は思った。後になって道の駅のHPで確認すると、鋭い爪とくちばしを持つタカの仲間で、漢字では「差羽」と書く。最近になって、市貝町の北部地域が世界有数のサシバの繁殖地ということが分かってきたそうだ。
宇都宮駅到着は24日の午前7時ごろ。結果的に403キロを27時間で走ったことになり、400キロのブルベだったら完走できたことになる。でもこの雨の中、あと200キロを走るなんてできない。ここまで難関を乗り越えてきた不屈の精神も、北関東の冷たい雨の前には為す術なくしぼんでしまった。
ただ、レインウエアを着ていた上半身は何ともなかったので、レインパンツも持ってきていればと後悔したのも事実。暖かい時期の雨ならしのげたが、寒い時期はフル装備が必要であることを実感した。
東北新幹線、東海道新幹線と乗り継いで帰宅。びしょ濡れのレーパンで座席に座ることは気が引けたので、自由席のデッキにずっと立ったままだったので、翌日は筋肉痛に加え、腰も痛くなってきたよ(T_T)
これで今シーズンのブルベは終了。11月から新シーズンとなるが、寒いので走っても200キロかな。(この項終わり)【石井政己】