絶対的エースが全試合完投 一方で継投策チームも
<センバツ高校野球:智弁学園2-1高松商>◇31日◇決勝
- サヨナラとなる中前適時二塁打を放った村上頌樹(1番)に歓喜の表情で駆けよる智弁学園ナイン(撮影・梅根麻紀)
今春のセンバツは智弁学園(奈良)が劇的なサヨナラ勝ちで高松商(香川)を破り初優勝した。エース村上頌樹投手(3年)が見事な投球を見せ、最後は優勝を決めるサヨナラ打まで放った。
「あっぱれ!」である。
村上投手は5試合すべて完投。47イニング、669球を1人で投げ抜いた。
試合後のヒーローインタビュー。「監督さんから『全試合行け』と言われていました。(669球を問われ)いつも投球数が多いので夏は少なくしたいです」。
智弁学園は20日の開幕戦が初戦だった。そこから中4日で2回戦、中2日で準々決勝、中1日で準決勝。連戦は準決勝と決勝だけだった。そんな日程も村上投手に味方してくれたのかもしれない。春の疲れを癒やし、再び万全の状態で甲子園のマウンドに戻ってくれることを祈りたい。
3年前のセンバツでは準優勝した済美・安楽投手(現楽天)の772球が大きくクローズアップされた。
1人のエースが投げ抜くのか、複数の投手で継投、またはローテーション制を取るのか、投球数を制限させるべきなのか…。安楽投手の772球を巡って、米国も巻き込んで様々な論争が起こった。
今大会に出場して4強入りした秀岳館(熊本)は5人の投手をベンチ入りさせ、全員登板させた。4試合すべて継投策だった。元NHK解説者で社会人野球やボーイズリーグ(中学硬式)の監督の経験もある鍛治舎巧監督はこう言った。
「150キロを投げる絶対的なエースがいれば1人でということも考えられます。でも私は絶対的なエースを作ってということは考えません。子供たちの将来を考えれば。無理はさせても無茶はさせません」。
今年1月に千葉・幕張メッセで行われた野球指導者講習会では、高崎健康福祉大高崎(群馬)の青柳博文監督から興味深い報告があった。
青柳監督は「投手の連投対策」というテーマでリポートした。同校は先発完投型から継投策へとチームの方針を転換した。
きっかけは4強入りした12年春のセンバツとその後に行われた春季関東大会(優勝)だった。絶対的なエースの酷使により夏の大会前に疲労骨折が判明。夏の大会までに完治せず、群馬大会4回戦で敗退した。この苦い経験から「1人の絶対的エースから『投手陣』としての戦い方を模索した。
そこで出した結論が以下の通り。
(1)野球を9イニングと考えないで3イニングを3セットと考える。先発完投を美学とせず酷使と捉える、先発は5回までという固定概念を捨てる。
(2)継投のコンセプトについて。投球の限界ではなく役割を果たした時点で交代させる。
(3)投手陣の役割を、スターター(先発。3イニング、最長でも5回)、ミドル(ショートリリーフとロングリリーフの2枚で流れを変えるタイプ)、セットアップ(四死球を出さない特徴のあるタイプで左腕も含まれる)、クローザー(抑え役、奪三振率が良い投手)、エクストラ(延長戦要員で野手の投入も含む)に分類。
さらにセイバーメトリクス(統計学)を用いて選手を分析。先発なのか、中継ぎなのか、抑え役なのか、ポジションを決めているという。
実際の運用として14年夏の群馬大会の例を挙げた。6試合すべて継投策で優勝。決勝戦は3投手のリレーでノーヒットノーランを達成し甲子園にコマを進めた。
青柳監督は「どんな絶対的エースであっても、また超高校級、プロ注目投手であっても完投すれば、少なく見積もっても2点や3点は取られるという現実がある。ならば、どうせ点を取られるのであれば、1人の完投で疲労困憊(こんぱい)の上に取られるのと、複数の投手で失点を分け合うのとでは、どちらが夏の長丁場の連戦を戦い抜き、たった1枚の甲子園切符を手にするに有利だろうか?」とリポートを締めくくった。
1人の絶対的エースと心中するのか、それとも複数の投手で戦うか。後がない一発勝負の高校野球にとって永遠のテーマなのかもしれない。ただ、秀岳館や健大高崎など、複数投手の継投策で戦う方法を選択するチームが増えているのも事実だろう。暑さが大敵となる夏に向け、各チームの投手起用に注目したい。
- 智弁学園先発の村上頌樹(撮影・奥田泰也)
- 延長11回裏智弁学園2死一塁、村上頌樹はサヨナラとなる中前適時二塁打を放つ(撮影・梅根麻紀)
- 村上頌樹の左越え適時二塁打で一塁走者の高橋直暉(背番号3)が生還しサヨナラとする(撮影・奥田泰也)
85年日刊スポーツ新聞社入社。野球記者11年、野球デスクを7年勤めた後、現在は毎朝6時半出社で「ニッカンスポーツ・コム」の編集を担当。取材で世話になった伝説のスカウト、木庭教(きにわ・さとし)さん(故人)を野球の師と仰ぐ。@fukudasunのアカウントでツイート中。