【とっておきメモ】帝京・前田監督、相手にスキ見せぬ厳しい顔続けた50年
<とっておきメモ>
静かに、50年の監督生活に幕を下ろした。帝京の前田三夫監督(72)が29日、都内の同校グラウンドで、今夏で勇退したことを選手たちに伝えた。今後は名誉監督という立場で、チームを支えていく。
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今夏の東東京大会を前に行った練習試合でのことだった。大敗に終わった試合後、相手監督が前田監督を見て、こう言ったという。「若くなりましたねえ」。久びさに会う先輩監督に、あいさつ代わりのひと言だったのかもしれない。
前田監督は、そう受け取らなかった。「厳しさがなくなった、顔に甘さが出ていたのか、と」。グラウンドを引き上げたあと、向かったのは鏡の前だった。古稀を過ぎた自分の顔を、しみじみ見つめた。怒りの表情をつくっては、何度もにらみつけた。同監督がその昔、こう言っていたことを思い出した。「監督と監督の勝負だから。相手にスキを見せちゃ負けだよ」。
ある大会の決勝だった。相手監督の動きを見て、試合前に「勝てる」と確信したという。監督自らが打撃投手を務めていた。「私には、マウンドで楽しんでいるように見えた。これならいける、と思ったね」。その通りの結果になった。
監督就任から50年、自らユニホームを脱いだ。これからは、スキをみせましょう。鏡の前に立つときは、生まれてくる孫が怖がらないよう、やさしい笑顔づくりの練習をしてもらおう。【米谷輝昭】