【甲子園】智弁和歌山・中谷監督の改革 プロのようなオフも取り入れる
<全国高校野球選手権:智弁和歌山9-2智弁学園>◇29日◇決勝
智弁和歌山を21年ぶり3度目の頂点に導いたのは、同校OBで元阪神、楽天、巨人の中谷仁監督(42)だった。18年8月に監督就任し、前任の高嶋仁名誉監督(75)から名門校を引き継いだ。元プロ野球選手が葛藤して監督就任を受諾し、覚悟を決めて進み続けた3年間。苦悩の日々を乗り越え、伝統と革新を融合。中谷イズムが結実しての全国制覇だった。
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名門の固定観念にとらわれない改革が実った。1月上旬、中谷監督は「次の夏の甲子園を確実にとった時じゃないと、この成果は評価されない」と覚悟した。昨年11月下旬の実戦を終えると、従来の練習を大胆に変えた。「基本的にオフにしたんです」。年明けまでの1カ月強を自主トレ期間にした。「基本的に好きにやってくれ。こっちは指導しないからな、とね」。これまでにない試みだった。
ナインは個々に午後4時前から同7時まで練習。練習メニューを与えず、自主性に委ねた。「僕がずっとやりたかったことです。周りの声が気になるだけでね。以前は、そんなことやったことないと」。センバツ出場も厳しい状況だった。思い切ってプロ野球のようなオフを取り入れた。
気づきが背景にある。「夏が終わった3年生が、10月にとんでもない球を投げたり、飛距離がめっちゃ伸びてる」。休養をとり、自ら練習する意義を見いだした。柔軟な指導者だ。18年の監督就任後は「速読」と「ヨガ」を取り入れた。
月曜日は隔週で1時間半から2時間、ユニホームを着させない。ヨガで体幹やバランスを鍛える。速読では動体視力も養える。「速い球に対応できる。グラウンドでの視野が広くなった」とうなずく。続けて「ボールペン習字の先生も呼ぼうかな。字が汚い選手が多いので」と笑った。
グラウンドでも常識にとらわれない。試合中はベンチ前で円陣が少ない。「いち早く次のイニングの準備をしてほしい。レガーズやエルボーガード、手袋など、つけるものが多い。準備遅れを防ぐためです」。伝統校にありがちな、堅苦しさがないのも、躍進の原動力だろう。
◆中谷仁(なかたに・じん)1979年(昭54)5月5日、和歌山県生まれ。智弁和歌山では2年時の96年センバツで準優勝。97年は主将を務め、同校初の夏の甲子園優勝。同年ドラフト1位で阪神に入団し、楽天、巨人でもプレー。現役時代は捕手で通算111試合に出場して打率1割6分2厘、4本塁打、17打点。17年春に智弁和歌山のコーチになり、18年8月に監督に就任し、翌19年にセンバツ8強、夏は16強に導いた。甲子園通算成績は9勝2敗(不戦勝含む)。