【明治神宮大会】青学大のドラ1コンビ、下村海翔と常広羽也斗のライバルを超えた特別な信頼関係

<明治神宮大会:慶大2-0青学大>◇大学の部決勝◇20日◇神宮

慶大(東京6大学)は、全日本大学野球選手権を制した青学大(東都大学)に勝ち、19年以来4年ぶり5度目の優勝を決めた。

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「ごめん…お願い」

6回からマウンドに上がった下村海翔投手(4年=九州国際大付)が8回、突如として崩れた。8球連続ボール球の四球で押し出し。9球連続となるボール球を与えると、そうつぶやいて常広羽也斗投手(4年=大分舞鶴)にマウンドを託した。

下村から常広へ-。エースを争ってきた2人の継投リレーに、何か特別なものを感じた。

常広がいたから成長できた-。下村は「近くにナンバーワンがいるのはいいこと。いい目標が近くにあるということだから」と感謝した。ライバルという存在を超え、今では大きな信頼を置いている。

自分らしさに気付いたのは昨年12月だった。その年の秋のリーグ戦で常広が活躍。大学日本代表候補強化合宿にも投手では常広だけが選出された。常広が注目を浴びる横で、下村は「自分は置いていかれているな…」と下を向いた。「入学した時は自分の方が絶対にスゴいと思って投げてきたのに、一気に抜かされた。周りはみんな『常広はスゴイ』って言っていたので…」。周りの声に心が揺れた。

自分を見失いかけていた時、偶然目にした同校OBのヤクルト石川雅規の言葉に救われた。石川といえば、小柄ながら今もなお現役で活躍。下村も身長174センチと体は大きい方ではない。相通じるものを感じ、言葉が胸に響いた。

「自分のやることが分かっているなら、それをやればいいんだよ」

周りばかり気にしていた自分に目が覚めた。「常広に全部勝とうとしていた。自分らしく勝負できたらいい。何か変わったわけではないけど、自分でできる気がした」。

『自分は自分らしく-』を追及した。

「前までは全部勝とうと思っていた。もちろん負けたくないですが、絶対に常広よりもいいところは自分にあると思う。そこを出して自分らしく勝負できたらいいな、と思えるようになりました」

持ち前の身体能力の高さを生かし、球のスピードを上げるためのアプローチの方法を探った。足を速くするために陸上。ジャンプ力を伸ばすにバレー。野球に限らず他種目のトレーニングも調べあげて練習。立ち幅跳びは平均値をはるかに超える3メートル10センチ。今年は体のバランスにも意識を置き「球速やボールの強さにつながった」と自信をつけた。

常広は、迷いを払い、自分らしさを確立し、練習に励む下村の姿を今も覚えている。

「昨年12月の代表合宿には自分だけ入っていて。でもその後、(下村)海翔が頑張って4年春にいい成績を残したので、自分も焦りというかあって。海翔は制球力、気持ち、投手に必要なものをもっていると思う。自分も頑張らないといけない、という気持ちになりました」

下村が目指した「常広」という存在も、いつしか「下村」に刺激を受け、上を目指した。

4年間、切磋琢磨(せっさたくま)し、たどり着いた神宮大会決勝戦のマウンド。試合には負けたが、中継ぎ、抑えと2人でつなぎ大学最後の試合を締めた。

下村が「常広は僕にとっていい存在」と言えば、常広は「下村はライバルというよりも、尊敬できる存在」と表現した。

大学での最高の出会いが、ドラフト1位と評される投手に成長させた。これから別々のチームでプレーする2人が、プロでどんな投球を見せてくれるのか。楽しみでならない。【保坂淑子】


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