大相撲裏話

42代式守伊之助「君は行司に向いているね」北の富士さんの一言で高校中退、九重部屋に入門

80歳の傘寿を祝う「北の富士さんを囲む会」で贈答された扇子の裏面には、42代式守伊之助の字で記された同時代の横綱の大鵬、玉の海、琴桜との顔ぶれが記された
80歳の傘寿を祝う「北の富士さんを囲む会」で贈答された扇子の裏面には、42代式守伊之助の字で記された同時代の横綱の大鵬、玉の海、琴桜との顔ぶれが記された

「君は行司に向いているね」。立行司の42代式守伊之助(63=九重)は、北の富士さんのその一言で、1年時の途中で高校中退を即決。当時の九重部屋に入門した。伊之助はこの日「親方(北の富士さん)のおかげで今の自分がいる。厳しさ、優しさ、懐の深さがあった」と故人をしのんだ。

小学3、4年ごろから相撲を好きになった。「当時はちょうど、親方が横綱に上がったころ。強くて憧れだった」。行司になりたいと手紙を送ると、手紙が返ってきて、ほどなく都内の自宅を北の富士さんが訪れたという。そこで「向いているね」と、行司として迎えたい意向を伝えられた。

最後に話したのは2年前の10月。80歳の傘寿を祝う「北の富士さんを囲む会」で、番付の書き手を15年間務めた伊之助が、表に「福寿」、裏に同世代の横綱、大鵬、玉の海、琴桜との取組(顔ぶれ)を書いた、扇子がプレゼントされた。会に出席できなかった伊之助が後日電話すると「いい字を書いているな」と褒められた。それが最後の会話だった。先場所から務める立行司姿を「解説席から見てほしかった。立行司は『親方』と呼ばれるので『早く親方と呼ばせてくれ』と楽しみにしてくれていた」と、さみしそうに話した。

同じく北の富士さんに誘われ、中学卒業後に入門した三役呼び出しの重夫(58=九重)も当時を振り返った。誘い文句は「君は呼び出しに向いているね」。2人とも「何が向いていたのかは分からないけど」と、同じ言葉で“人たらし”ともいえる故人を思い出して笑った。重夫は「大尊敬する方。私にとって生みの親は北の富士さん、育ての親は千代の富士さん。どちらも…。さみしいです」とポツリ。力士だけではなく、相撲人気を裏方として支えてきた人材の育成も、北の富士さんの数ある功績の1つだろう。【高田文太】

80歳の傘寿を祝う「北の富士さんを囲む会」で贈答された扇子の表面には、「福寿」や「弟子一同」などの42代式守伊之助の字が記された
80歳の傘寿を祝う「北の富士さんを囲む会」で贈答された扇子の表面には、「福寿」や「弟子一同」などの42代式守伊之助の字が記された

取組を見るだけじゃ分からない、日刊スポーツの大相撲担当記者が土俵周辺から集めてきた「とっておきネタ」をお届けします。

おすすめ情報PR

相撲・格闘技ニュースランキング