現代のステルスDV ブレイク・ライブリーが演じた「ふたりで終わらせる」
DVを題材にした作品として思い出すのは、ジュリア・ロバーツが主演した「愛がこわれるとき」(91年)や、こちらも暴力夫の怖いまでの執着心を描いた「セイフ ヘイブン」(13年)だ。
夫はあからさまにサイコなキャラとして描かれ、妻は文字通り命の危険を感じている。ここまでくると、人ごととして見る人の方が多かったのではないかと思う。
一昨年、米国でもっとも売れた恋愛小説を原作とした「ふたりで終わらせる」(22日公開)は、見方を間違えれば家庭内の「当たり前の日常」におさまりそうな出来事に焦点を当て、身近な題材として考えさせられる。
父親の葬儀で故郷に帰ったリリーは、喪主あいさつの段になって言葉が出てこない。父との間に何があったのか。そんな疑問を残しながら、場面は彼女がフラワーショップの開店準備を進めるボストンに戻る。
理想のショップに向けてまい進する彼女の前に現れたのは脳外科医のライル。情熱的で彼女の夢も大切にしてくれる理想の男性だ。穏やかな恋の日々が始まるが、リリーは少しずつ違和感を覚え始める。
そんな時、高校時代の元カレ、アトラスと再会する。リリーの父の「素顔」も知る彼は、一見幸せそうな彼女を祝福しながら、彼女が覚える違和感の理由を指摘する。リリーとライルの間にはしだいにズレが生じるようになるが、彼女は妊娠していることに気付いて…。
リリー役のブレイク・ライブリーはプロデューサーも兼ね、原作が描く「孤独感」にこだわっている。微妙な心の移ろいが伝わってくる。10代の彼女を演じるイザベラ・フェレールも好演で、変わらない優しさが見事にシンクロしている。
ライル役のジャスティン・バルヂーニは監督を兼ねていて、男性の立場からは見えにくいズレを絶妙なタイミングで提示する。アトラス役のブランドン・スクレナーとは毛色の違う「イケメン対決」がほどよいコントラストになっている。
個性的なフラワーショップは、リリー自身の心を象徴するようで、アトラスとの思い出にも重なる。
終盤のリリーのセリフがそのままタイトルになっていて、その決意に思わず拍手を送りたくなった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
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映画のない生活なんて、考えられない。映画は人生を豊かにする--。洋画、邦画とわず、三十数年にわたって映画と制作現場を見つめてきた相原斎記者が、銀幕とそこに関わる人々の魅力を散りばめたコラムです。