60年寝かされても…展開は劇映画の先端/十一人の賊軍(日)
1960年代前半に、それまでの時代劇における1対1の決闘といった様式美をぶち壊し、集団で戦うリアルさを追求した「集団抗争時代劇」というジャンルがあった。同ジャンルを生みだした東映で「仁義なき戦い」シリーズなど、あまたの名作を生み出した脚本家・笠原和夫さんが、64年に脚本を執筆も映画化に至らず、残ったプロット(あらすじ)を白石和彌監督が発見し現代に映画化した。
明治維新の最中の1868年(明元)に勃発した戊辰戦争の際に、新発田藩(現・新潟県新発田市)が奥羽越列藩同盟(旧幕府軍)を裏切るエピソードが物語のベースだ。藩に捕らえられた11人の罪人が、新発田藩に迫る新政府を食い止め、旧幕府軍との鉢合わせを避けるため最前線のとりでを守る「決死隊」の任に就き、憎き藩のために命をかける葛藤を描いた。
笠原さんの企画が通らなかったのは全員が討ち死にする結末が要因だったが、現代の観客に訴えかけるには希望が必要と、全員が死なないなど物語に改編を施した。白石監督がプロットをKindleで見つけたのも今流だが、生々しく骨太な作風で日本の時代劇の1つの象徴である東映時代劇映画の力強さを感じながら、スピーディーかつスタイリッシュなアクション、展開は劇映画の先端をいく。主演の山田孝之が1日の初日舞台あいさつで口にした「それぞれ自分の守るべき正義があって戦うのは、いつの時代も変わらないと思う」と語ったように、現代に生きる我々も共感でき、若者の心にも強烈な何かが突き刺さるに違いない。【村上幸将】
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