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「おい河井!」塀の中に落ちた元法務大臣・河井克行氏が獄中体験激白「再犯率減少に役立ちたい」
19年の参院選広島選挙区買収事件を巡り、公選法違反の罪で懲役3年、追徴金130万円の実刑判決が確定し、服役した河井克行氏(61)が今週末、京大で開かれた日本犯罪社会学会の年次大会に出席しました。専門家を前に自らの獄中体験をベースに3つの「提言」をしました。
「おい、河井!」。若い刑務官の怒声が医務室に響きました。21年11月から喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市)で服役。目に持病があり、日頃から点眼薬を服用するため、まつげが異常に伸びるという河井氏。切らないでいると、逆まつげになり「眼球を傷つけ、痛いのなんの、涙が出て、七転八倒する。社会にいたときは、毎月、かかりつけの眼科医にまつげを切ってもらっていた」。
塀の中は「事情」が違っていました。かかりつけの医師の「毎月、まつげを切るのが望ましい」との所見書を提出しましたが、刑務所の医務室では、非常勤の眼科医が「そんなこと、聞いたことがない」。何度も説明しましたが、「いや聞いたことがない」と言い張りました。「痛くて夜も眠れない」と“窮状”を訴えても、「いや聞いたことがない」の押し問答が続きました。
そのとき、横に立っていた若い刑務官が突然、「おい、河井!」と怒鳴り、「なんだ、それは! それは職員に対する反復要求だぞ」。
一事が万事。塀の中での1つの出来事でしたが「たぶん、普段からこういう調子でやっているんだなと思った」。後日談として、逆まつげの「処置」をしてもらえることになりましたが、「これも今となってはお笑いなんですけど、ハサミは使えない。どうするんですか? ピンセットで抜こうと。まつげを10本ぐらい、ピンセットで抜かれていた。そのたびに涙が出た」と振り返りました。
計1160日間、塀の中で暮らしました。独房では、妻案里氏らから差し入れしてもらった本を約870冊、読破しました。「自分の専門性、外交、安全保障を磨こうと、英単語を新たに3000~4000は覚えた。まあ、年齢が年齢ですから、覚えても忘れてしまうこともありましたが(笑い)」。
なぜ、塀の中でも積み重ねることができたのか。
「自分の人生で努力をしてきたからです。外に妻をはじめ、私を待ってくれている人がいたからです。そうではない人たちは、どうすればいいのか」
法務大臣・副大臣を歴任した人物が受刑者になったのは史上初めて。塀の中に落ちて、受刑者の就労支援などが「政治」とは、かけ離れていることに気づいたといいます。
「刑務所にヒト、モノ、カネをたくさん投じることは、率直に言って、国民の少なからずの人たちは、拒否反応があると思う。税金ですから、刑務所に使うのではなく、もっと私たちの身近なところに使ってほしいと思う人が多いのが現実。でも、回り回って、それが国民1人1人の利益につながるんだということを日本犯罪社会学会のみなさんが議論して、よりよい施策を作り上げ、社会に向けて発信していってほしい」
塀の中に落ちた元法務大臣は自らの獄中体験から3つの提言をしました。
<1>受刑者たちの声なき声を徹底的に聞き取る
「とくに教育とか就労支援のあり方について意見を聞くべきです。本省の職員がいろんな政策を作ったところで、本当に合理的な施策と言えるのだろうか」
<2>いまいる職員の意識改革&新たな体制作り
「工場の担当刑務官に教育と指導を兼ねさせるというのは、業務量と日々の力から言って無理」とし、具体例として「用便に行っていいですか?」を挙げた。
「1人の受刑者が1回、トイレに行くのに18回も許可をしなければいけない。例えば受刑者50人が1回トイレに行くとすれば、900回の許可がいる。ほかにもありとあらゆることに許可がいる。それをやっているのが現場の刑務官。受刑者に寄り添えとか言うのは、机上の空論です。心理カウンセリングなどを経験した人材を法務省が大量に採用する。刑務官ではなく“教務官”を新設し、各刑務所に配置する」
<3>受刑者の心を動かし、必要とされる情報提供
「現場の職員が受刑者1人1人に寄り添える余裕を与え、面談などを充実して、受刑者が本当に何を望んでいるかをつかんで、受刑者の更生に役立つ情報を積極的に提供する」
23年11月に仮釈放された河井氏。京大で専門家を前に「提言」した10月19日はくしくも刑期満了の日でした。事件を生涯の十字架として背負い続ける覚悟の河井氏は言います。
「再犯率減少のために少しでも役立ちたい」-。
【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)