堤は、太平洋戦争末期の1945年(昭20)の沖縄・伊江島に宮崎から派兵された上官の山下一雄、山田は地元沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンを演じた。日本軍は米軍との激しい交戦の末に壊滅的な打撃を受け、2人は激しい銃撃に追い詰められて森の中に逃げ込み、大きなガジュマルの木の上へ登り身を潜める。太い枝に葉が生い茂るガジュマルの木は、うってつけの隠れ場所となったが、木の下には仲間の死体が増え続け、敵軍陣地は日に日に拡大し近づいてくる。連絡手段もなく、援軍が現れるまで耐えしのごうと、2人は終戦を知らぬまま2年もの間、木の上で“孤独な戦争”を続けた。
木の上のシーンは、実話と同じく伊江島で実際に生えているガジュマルの木を活用し、沖縄在住のスタッフを中心に組まれた製作陣が撮影を敢行した。堤は、戦争下で厳しく恐ろしい上官だった山下が、木の上の生活で変わっていく様を悲惨さの中にユーモアを交えて演じた。山田は沖縄で育ち、1度も島から出たことがない純朴な新兵・安慶名を、ウソのないまなざしで真っすぐに表現した。
初共演だったが、堤は「難しい役だといろいろ考えていたけれど、真っすぐ安慶名そのものの山田くんのおかげで2人だからこそ生まれたものをそのままやっていけばいいんだと思えた」と山田への絶大な信頼をのぞかせた。山田も「堤さんの実在する力がすごく、お芝居せずに反応できる、役を生きるということができた」と、目前の堤が醸す存在感で、生み出されたリアリティーがあったと強調した。
堤真一 この作品は、ただ戦争はいけないということだけでなく、戦争によって変わっていく人間の価値観や、今の時代にも通じるその時代ごとの世代間のギャップなど、いろいろなことが描かれています。監督が沖縄出身ということもあり、沖縄からの目線で描かれていますが、僕自身もこれまで知らなかったことが多く、この映画を通して実際にこういうことがあったということを知り、学んでいます。今からもう、若い方たちにはもちろん、自分の子どもたちにも見せたいなと思っています。沖縄が戦争で大きな被害を受けたことは知っていましたが、長い年月がたった今だからこそ、細かいことまでつまびらかにしていかなくてはならない、とあらためて感じました。まだ映画は完成していませんが、題材そのものも含めて、日本だけでなく、まだ争いがおこっている世界中でも観ていただきたいです。
山田裕貴 この作品のお話をいただき、脚本を読んだ時、監督が実際にたくさん取材をされ、戦争の悲惨さ凄惨(せいさん)もしっかり映し出されていたので、僕も含めて戦争を知らない世代の人が増えてきている中、こういう作品を伝える役目をもらえてうれしかったです。僕は、戦争真っただ中を生きているわけではないけれど、疑似体験として役を生き、体感していくお芝居の中で、2年間木の上で生き抜いた人がいる、それができた人がいるから僕たちにも何かできると、そう感じられるのは、実在した人を生きるということの強みなのかなと思っています。作品を通して僕も知らなかった沖縄の歴史を知ることができ、こういう時代があったから、今があるのだとあらためて感じることができました。この事実を知ってもらい、この作品がひとつ考えるきっかけになればいいなと思っています。それは日本にとどまらず、世界中の人にも、一人でも多くの方に観てもらえたら幸せです。
平一紘監督 このたび「木の上の軍隊」の監督・脚本を務めることになりました。僕は、沖縄で生まれ育ち沖縄戦について沢山知っているつもりでした。しかし、この映画を撮るためにあらゆる角度で取材し、あの戦争を見つめた時「木の上の軍隊」で皆さまに見せたい景色が見えてきました。たった二人の兵隊の、おかしくも壮絶な2年間の戦いを是非劇場で体験して頂きたいと思っています。堤真一さん、山田裕貴さんは見事なまでに、兵士たちの決意と揺らぎ、葛藤を演じてくれました。僕らはただ、それを見守るように撮影しました。それだけで十分でした。そして終戦80年の節目に公開するということ。沖縄で撮ったということ。伊江島で撮ったということ。生きた樹で撮影したこと。それらは全てスクリーン上で皆さまに肉薄するでしょう。本当に起きた事の恐ろしさと、素晴らしさをご覧頂きたいです。
プロデューサーの、こまつ座・井上麻矢氏 「木の上の軍隊」は故井上ひさしが書く事を切望していた物語です。その思いがかなわず、作家は他界しましたが、さまざまな方の手によってその思いは引き継がれ2013年の初演を皮切りに、3度再演を重ねてきた演劇の作品でした。日本では再々演を重ね、世界から上演許可の依頼をいただき、昨年は韓国のLGアートセンターにて公演も行いました。そんな作品を映画化したいとおっしゃってくださったのは沖縄の血脈の入った沖縄の皆さんでした。そして素晴らしいキャストの皆さんに恵まれました。映画が大好きだった井上ひさしはどれほどうれしかったでしょうか。この作品の根底に流れているのは「平和」です。枝や幹が複雑に絡み合う生命の木であるガジュマルの上で生き抜こうとした2人の兵士の姿を通して、生きることを真剣に描くこと、それがこの混沌(こんとん)とした時代に届ける今を生きている私たち1人1人の使命だと思います。沖縄にはいずこにも御嶽(祈りの場)があります。そして風の吹き抜ける島でもあります。描かれた
沖縄戦を通して、私たちの戦後もそして誰もが持っている素晴らしい未来までも感じられる映画となるように私もまた祈りを込めてこの作品を皆さまに届けたいと思います。