「少数与党」感満載、試練の石破首相 野党は遠慮ないやじ&自民の拍手はまばら…所信表明演説
石破茂首相(67)は29日、衆参両院で所信表明演説を行った。10月の衆院選で56議席減となった自民党の衆院本会議場の議席は、立憲民主党などの野党勢に押し込まれ、面積がかなり減少。「何言ってんだ!」「意味がない」「だれのせいだ」など、勢力を増した立憲民主党を中心に遠慮のないやじが乱れ飛ぶ「少数与党感」あふれる議場を前に、石破首相は演壇に立たざるを得なかった。
今やキーマンとなった国民民主党が求める「年収103万円の壁」引き上げについて、石破首相は「党派を超え、すぐれた方策を取り入れるべく最大限の工夫を行ってきた。令和7年の度税制改正の中で議論し、引き上げます」と明言。国民が求めるガソリン減税についても「検討し結論を得ます」と触れた。
「地方創生」「防災省」など、首相の肝いりテーマも並んだが、特に思い入れが強い「防災省」の場面で、自民党席の拍手はまばらだった。終始、力強い拍手を送っていたのは、首相の前任者、岸田文雄前首相(67)くらいだった。
少数与党転落の原因となった衆院選を「国民のみなさまからの政治資金問題へや改革姿勢に対する叱責(しっせき)と受け止めている」と振り返ったが、政治改革に言及したタイミングは演説の終盤。「反省はないのか」と、ここでもヤジが飛んだ。
逆にこだわりがにじんだ「石破カラー」は、石橋湛山元首相の施政方針演説の引用だった。自身の誕生日当日(1957年2月4日)に行われた演説の一部に、冒頭と結びで触れた。「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り…」「国民全体の福祉のみ念じて国政の方向を定め、論議を尽くしていくように努めたい」という内容で、協力して議論を進める必要性を説いた先人の言葉を発信し、与野党に理解を求めたかったようだ。
ただ、石橋内閣は在職65日の短命政権。引用するのは縁起が悪いのでは、という周囲の懸念を首相が押し切り、引用に踏み切ったという。
首相は「外交も内政も、国民の後押しほど大きな力はない。国民のみなさまに信頼いただけるよう誠心誠意取り組む」と訴えた。首相就任直後の10月4日に行われた所信表明演説では、野党席の激しいヤジに首相が一瞬、演説を止めて軽くにらむようなシーンもあったが、今回はそうした挑発的な場面はみられなかった。
首相が望む国民の後押しが生まれるきっかけが見えていない中、12月2日に始まる各党代表質問では、さらに厳しい追及が待ち受ける。【中山知子】