正解はない、歯みがき回数やゆすぎ方/歯学博士・照山裕子

「100歳まで食べられる歯と口の話」<34>

取材での質問で圧倒的に多いのは、理想的な歯磨きの回数や時間、ゆすぎ方や水の量についての項目です。これは私からすると「どの女性にも効果がある基礎化粧品の塗り方や量」あるいは「誰にでも当てはまるお風呂の理想的な入り方」を聞かれているのと同じです。正解は百人百様、自分に全く合わないセルフケア法を長く続け、歯の健康を損ねてきた患者さんを山ほど診てきた立場からするとナンセンスだなと感じます。

歯磨き回数が多いほど、フッ素配合歯磨剤による虫歯予防効果が高いという研究があります。2621人の被験者を対象に3年間の臨床試験を実施した結果なのですが、3年間の前後で歯磨き回数を調べたら、多い人ほど虫歯になっている歯面が少なく、かつ虫歯の増加も低かったと述べられています。

飲食後に口の中は酸性に傾き、歯が脱灰しますが、頻繁に磨けば酸のアタックが減ります。世界的に虫歯予防効果が実証されているフッ素をその都度利用することによって再石灰化が促進されます。いわば虫歯ができる隙を与えないというこの方法は、当然ながら理にかなっています。

905人の被験者を対象に、フッ素配合歯磨剤を使用した後の口ゆすぎの回数が少ない人ほど、フッ素による虫歯予防効果が高いという結果も報告されています。手で水をすくう方法とコップを使ってゆすいだ場合も比較し、水の量が多ければ虫歯予防効果が低下していた、つまり少量の水でゆすぐことが望ましいとされる根拠のひとつです。

しかしながらこの2つの研究は、どちらも被験者の平均年齢が12・5歳、約30年前に行われているものだという点を考慮する必要があります。この年齢なら恐らくすべて天然の歯でしょう。差し歯や入れ歯と共存している中高年の口とはまるで違う環境です。情報弱者にならないためにも、まずはかかりつけ医に相談が確実です。