オーラルフレイル対策に日々のセルフケアを活用/歯学博士・照山裕子

「100歳まで食べられる歯と口の話」<35>

口周りの筋肉が衰え、機能が低下する「オーラルフレイル(口の虚弱)」対策は、令和の歯科医療の神髄ともいえます。口が弱ると食べられる食品が偏り、栄養バランスが崩れます。足腰の筋肉量が低下すると外出しなくなる、他者との会話がおっくうになる等の理由から、社会的つながりも絶たれます。こうした変化が「フレイル(全身の虚弱)」に直結する事実がさまざまな研究からわかってきたという背景により、口の老化対策が健康寿命の基本だと定義づけられてきました。

からだを作るすべての栄養が入る口腔(こうくう)は、生命をつかさどる最初の臓器です。飲食時の口の動きをじっくり観察してみると、歯だけでなく口周りの筋肉が総動員されているのが見て取れます。例えばお煎餅を食べる時、前歯でかじったかけらが飛ばないように唇が自然と動いています。奥歯で砕いて細かくする際に、唾液が介在しなければ口の中は傷だらけです。飲み込んで消化するタイミングが適切かどうかも、口のなかのさまざまな場所が感知して決めています。味蕾で味わうと同時に、舌は餅をこねる手のように動き、食塊を作るアシストをします。適切なタイミングで食道に送ることが大事なので、誤嚥(ごえん)を防ぐ働きもするスーパーマンです。

このように体は実に精巧なつくりをしており、どれかが衰えると消化吸収に影響が出るのです。こうした一連の動きを鑑みると、歯が残っていることと、満足な食生活が送れているかどうかが一致しない可能性がある懸念がお分かりいただけるのではないでしょうか。現代の歯科医療では、機能的な側面にもフォーカスを当てている点が新しい動きだといえます。

整形外科でリハビリなどの運動療法が取り入れられてきたのと同様、歯科でも口周りの力を計測し、機能向上に役立つ指導やトレーニングが受けられるのです。ぜひ積極的に活用してください。