歯周病に糖質制限は必要か/歯学博士照山裕子

「100歳まで食べられる歯と口の話」<37>

磨き残しが主な原因で引き起こされる歯周病は、生活習慣病の側面が大きい点が特徴です。汚れの蓄積が年単位で続くことによる悪影響はもちろん、基礎疾患を有することで歯周病菌に対する抵抗力が下がる、歯周組織が年齢とともに変化し炎症を起こしやすくなることなどがその理由です。

全身免疫の中心を担うT細胞は胸腺で育ちます。胸腺は加齢とともに小さくなるため、産生されるT細胞の数が減り、機能も低下します。年を取ると病気にかかりやすくなるとされるゆえんです。

年齢を重ねると当然細胞自体も老化します。歯ぐきを構成する歯肉線維芽細胞も同様で、歯周病菌が放つ毒素の刺激に対する応答が高くなる、あるいは歯周組織の破壊を起こす炎症性物質を多く作り出してしまうことが実験からも明らかになっています。自然現象である老化は回避できないので、やはり病原菌に対する対策すなわちセルフケアを強化するしかありません。

歯周組織が歯周病菌によって攻撃された際、応酬する免疫細胞は血液とともに運ばれて局所にやってきます。血管がしなやかであれば血流もスムーズですが、加齢とともに内膜肥厚を生じていれば滞ります。歯周組織近くの下歯槽動脈でもこうした変化が起こることがわかっており、若い頃は気づかないうちにおさまっていた炎症が、ある日突然悪化することもあるわけです。

炭水化物を過剰摂取すると血液中に糖質があふれかえってしまい、いわゆる「高血糖」状態になります。高血糖によって血管の老化促進につながるAGEs(終末糖化産物)が増加しやすくなることは周知の事実です。目が見えにくくなる、耳が遠くなるといったわかりやすい症状とは異なり、こうした変化はサイレントです。血管老化の予防は間接的に歯周病の改善につながると考え、ある程度の糖質制限は意識すべきと心得てください。