歯をゴシゴシこすってはいけない/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<40>
1日の中で口の中の細菌数には変動があることがわかっています。
もっとも数が増えるのは、口を動かさず唾液の分泌も止まる就寝中です。唾液中の細菌数を見たサンスターの調査によると、夜間のブラッシング前の細菌数を100とするとブラッシング後は半数以下に減少します。ところが起床時は250にまで増えているのです。こうした結果から読み取れるのは、寝る前のブラッシングがいかに重要かということと、普段活発に体が動いている時間とそうでない時間を区切った戦略的なオーラルケアを組み立てる必要があるということです。
オフィス街やホテル、駅の洗面台に立ち寄ると「ゴシゴシ、カシャカシャ」とものすごい音を立てて歯ブラシをこすりつけている女性の姿を見かけます。新型コロナウイルスが大流行した初期、歯磨き時の飛沫(ひまつ)問題というニュースがお茶の間を賑わせました。歯科医療者からすると非常に驚いた出来事のひとつでもあり、同時に、一般の方が普段どのように歯を磨いているかという現実をあらためて認識した瞬間でもありました。正しいブラッシング法は音も飛沫も出ないからです。
成人の場合、汚れは歯と歯ぐきの境目および歯と歯の隙間にたまります。また、飲食物の種類によっては舌やほおなど、歯以外の部分にもベタッとしたぬめり汚れが付きます。外出時のエチケット目的であれば、隙間のケア、マウスウォッシュ等での対応がベターなこともありますし、歯を磨きたいなら極力エナメルを傷つけないような優しいケアを心がけましょう。
これだけ多くの外国人が日本を訪れているにも関わらず激しい音を立てて歯をこすっている人を見たことがありませんが、ささいな習慣にもヒントがあると思うのです。大切な歯や歯ぐきを100歳まで守るためにも、ケース・バイ・ケースで使うアイテムや当て方を考えてください。