植松鉱治がマジで練習した新技「フジマキ」
体操元世界選手権代表の植松鉱治氏(29)が挙げたのは「ガンバ! Fly high」だ。金メダリスト森末慎二氏の原作で、細部の描写にこだわった、珍しい本格的体操マンガだった。リオ五輪で個人総合2連覇を狙う内村航平(27)も愛読していて、現在の体操界ではバイブルと言える作品だ。
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「ガンバ! Fly high」は小学4年生ごろから読んでました。まだ体操を本格的に始めたばかりで、手の届かないような技が次々と出てきて、「体操ってこんなことができるんだなあ」と思っていました。ストーリー的にも、主人公の藤巻駿が体操を何も知らないところから始まって、五輪で自分の名前が付いた技を全部披露して金メダルを獲得するというハッピーエンド。夢のある話だなと思いました。
現実の世界では未発表の技がどんどん出てくるんですけど、その中の1つは割と真剣にやってみました。鉄棒のトカチェフに前方宙返りを加えた技「フジマキ」です。「これはいけるんちゃう?」と思って。いや大人になってからですよ。結構最近の話です(笑い)。残念ながら成功には至らなかったですけど、厳しい練習の中でああいうリラックスできる時間を持てたことがよかったかなと思います。
新技って、発想することが大変なんです。実現可能なオリジナル技を思い付くのは本当に難しい。ただ、自分しかできない技が試合で成功したらうれしいですよ。このマンガからは、そういう部分での刺激は受けたと思います。選手・植松鉱治に影響を与えていますね。
体操の新技のことに触れておくと、今の体操では、過去の技を応用してできることが多いですね。半分ひねりを多くするとか1回宙返りを多くするとか。得点のルールも変わってきていますから。かつての月面宙返りのような完全なオリジナル技というのは、出てきにくいんじゃないでしょうか。そんな中で「フジマキ」級の技を出してくる選手がいたらすごいですね。
「ガンバ!〜」では主人公の藤巻のほかに力技がすごい選手とか、貴公子みたいな選手、悪人がいて、男子があこがれる女子がいる。ストーリーも面白かったですよ。
僕らの世代の体操選手はほとんど読んでいるんじゃないですか。(内村)航平も読んでましたよ。大人になって選手同士でマンガの話はあまりしないですけど、みんな頭の片隅に「ガンバ!〜」があるみたいな(笑い)。
僕が他に読んでいたのは「北斗の拳」「巨人の星」「ドラゴンボール」あたりです。「巨人の星」は世代ではないですけど、父が全巻そろえていて、家で読みました。スポーツ定番の「スラムダンク」は友達に勧められて全部読んだんですけど、それほどグッとこなかったですね。球技も好きなんですけどね。ちなみに体操選手は球技が苦手、というのは本当です。というか体操以外ほとんど苦手です(笑い)。
<リオ五輪日本代表へ>
内村の個人総合と鉄棒、白井の床は金メダルが取れると思います。団体も各国の成績を見ているとかなり可能性は高い。それに加えて加藤の個人総合、田中の平行棒もメダルが狙えます。体操でメダル6個を予想します。
プロフィール
◆植松鉱治(うえまつ・こうじ) 1986年(昭61)8月30日、大阪府松原市生まれ。松原七中、清風高を経て仙台大進学。4年時の2008年全日本学生選手権個人総合で内村を抑えて優勝。コナミでも「鉄棒のスペシャリスト」として活躍。2010年世界選手権では日本の団体銀メダルに貢献。2013年全日本選手権の鉄棒で優勝。昨季限りで現役を引退した。
※「ガンバ! Fly high」 原作・森末慎二、作画・菊田洋之 週刊少年サンデー(小学館)で1994年から連載された体操漫画。主人公の藤巻駿が、所属する平成学園体操部の仲間と切磋琢磨しながら、五輪の金メダルを目指すストーリー。当時としては、漫画の世界だけだった「4回宙返り」や「ローチェ2分の1ひねり」、また「G難度」は、現在では現実の技や難度となっている。