連日の熱戦に、スタンドも熱い。特にブラジル人選手が出場する試合は、ヒートアップする。「ブ・ラ・ジル」の大合唱にブラジル国旗が振られる。まるでサッカーの試合。ブラジルならではの雰囲気はリオでの五輪を感じさせるが、これが問題になっている。
ホームチームの応援は当然だが、眉をひそめる選手もいる。陸上男子100メートルでは、ガトリンに激しいブーイングが浴びせられた。人気のボルトを応援するあまり、ライバルをやじる。「別に気にならない」とガトリンは言ったが、気持ちのいい行為ではない。
ブラジル人選手が2位と3位になった体操男子床運動では、ライバルのミスに大歓声が起きた。着地が乱れるたびに、大きな拍手。いつもの精神状態で演技をするのは、困難な状況に思えた。本人は笑って否定したが、白井のミスにも影響したのではと思う。
毎日行われる国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委の会見でも、質問が飛んだ。「フェアな試合を妨害している」「ブラジル人ファンは五輪精神を知らない」…。組織委のアンドラーダ広報部長は「ベースはサッカーの応援。相手は敵という考え方を、すべての競技に持ち込んでいる。正しい応援を教育していかなければ」と苦しい返答をする場面もあった。
サッカーの応援が悪いわけではないが、すべての競技でサッカーのように応援されてはたまらない。テニスのブラジル選手対アルゼンチン選手では、スタンドで「サポーター」同士の小競り合いまで起きた。その競技に合った応援、雰囲気作りは、大会成功への大きなカギを握っている。
4年後、日本人はどういう応援をするのか。東京五輪を盛り上げる大切な要素になるはずだ。かつて「日本は野球文化で、サッカーの応援はできない」と言われたが、Jリーグ発足で変わった。多くの競技がBSやCS放送で見られる今、その応援風景を知る機会も増えた。五輪では普段はなじみのない競技も多い。競技力向上とともに、日本人の「応援力向上」も各競技団体の仕事になる。
20年東京五輪は、大会ビジョンの基本コンセプトとして「全員が自己ベスト」を掲げている。選手が力を存分に発揮し「日本で試合ができて良かった」と思えるように、スタンドの環境作りも大きなテーマだ。【荻島弘一】