五輪公園内にあるカリオカアリーナ、日の丸の旗がスタンドを埋める会場で、君が代が3回流れた。3階級すべてで決勝に進み、そろって終了間際の劇的な逆転優勝。隣の米国人記者は両手を広げて驚き、次の瞬間に大声で笑いだした。日本の金メダル独占を素直に喜びながらも、女子レスリングの危機を感じた。

 「世界一」と自負する日本選手の練習は、確かに驚異的だ。練習中はノンストップ。数多くの競技を取材してきたが、これほど密度の濃い練習は他にない。また、いち早く女子強化に取り組み、五輪採用に尽力した日本協会トップの功績も大きい。選手や指導者、関係者の努力の産物としての金メダルだから、心から祝福したいとは思う。

 ただ、女子レスリングという競技を考えれば、金メダル独占は手放しでは喜べない。決勝の対戦相手は、いずれも五輪や世界選手権の表彰台の常連。選手層が薄いから、顔ぶれが変わらない。伊調は「4連覇を狙えるのは、そういう(選手層が薄い)背景があるかも」と話したことがある。陸上や競泳と比べて、ライバルが少ないのは事実だ。

 今大会日本選手団副団長の山下泰裕氏はメダル12個の日本柔道チームの活躍を喜びながらも「26カ国がメダルをとったのが、うれしい」と話した。多くの国に柔道が広がり、各国の競技レベルが上がる。国際柔道連盟(IJF)理事として、そのことを喜んだ。

 柔道の場合、発祥国として日本は世界への普及に努めてきた。各地に指導者を派遣し、アフリカなど途上国に畳や柔道着を贈った。講道館の嘉納行光名誉館長は「日本が金メダルを取ることも大事ですが、それ以上に多くの国に金メダルをとってほしい」と、競技の普及と発展を願う。その考えがあるからこそ、柔道は五輪で重視されている。

 女子レスリングはどうか。五輪競技になったとはいえ、男子に比べてまだまだマイナー。世界選手権でも出場選手は半分以下だ。まず普及し、さらに強化しないと、将来はない。これは世界レスリング連合(UWW)の問題だが、女子レスリング最強国である日本も指導者派遣などで協力することはできる。国内の強化は大切だが、同時に海外への普及も必要。それを怠ると「五輪除外問題」が再燃するかもしれない。【荻島弘一】