【町田】来季加入のカウンゼン・マラ、涙のプロ入り会見「海外にルーツ持つ子どもたちの憧れに」

  • 会見で涙を流す産能大GKカウンゼン・マラ

FC町田ゼルビアに来季加入する産業能率大GKカウンゼン・マラ(22=東京Vユース)が22日、神奈川・伊勢原市内の湘南キャンパスで会見し、夢のプロ入りへの思いを涙ながらに口にした。

あいさつに立った190センチの長身キーパー。母チュチュさんが会見を見守る中、感謝の思いを口にしている途中で言葉に詰まり、大粒の涙があふれた。ハンカチで目元をぬぐった。

「恩返しがしたい。一番近く支えてくれた両親には感謝したい。毎日連絡してくれる妹にも感謝したい」。苦難を乗り越え、ここにたどり着いた。そんな思いが垣間見えた。

両親はミャンマー人。チュチュさんが日本語を話せたこともあり、23年前に自由な環境を求めて東京にやってきた。その後に生まれたのがカウンゼン・マラ。ビルマ語でマラは「最高」だという。スポーツを通して強くなってほしい、そんな願いが込められている。

「多くの海外にルーツを持つ子どもたちが憧れを持つ日本を代表するGKになります」

“海外にルーツ”。その言葉に隠された思いを問われると、カウンゼン・マラは「小学生の時、僕のような海外にルーツを持つ人は少なくて、あまり認められないことが…。お互いに何も分からないことが多いので、いろんな困難がありました。その中でも何か目的を持って好きなことをやっていけば、自分のやりたいことに近づいていく、それを証明したいです」。

言葉を選びながら、小学生時代の記憶に触れた。

チュチュさんは「仲間外れにされることもあった。だからスポーツを通じて強くなってほしかった。テニス、水泳、いろんなことをやらせました。でもウチにはお金がない。朝8時から晩12時まで、掛け持ちでいろんな仕事をしました。寝る間もなかったけど、子どもたちがスポーツをするために頑張りました」。

父は元バレーボールのミャンマー代表選手というアスリート家系。190センチの長身も父譲りだ。その父もレストラン、スーパーマーケットなどいろんな仕事をこなし、家族を養った。

東京ヴェルディのアカデミーで中高時代を過ごし、産能大へと進学した。順風満帆ではなく、試合に絡めるようになったのは3年生になってから。チュチュさんが言う根っからの「努力の人」だ。シュートストップ、長身を生かしたハイボールへの対応、そして利き足の左での正確なキックに磨きがかかった。この夏に町田の練習に2度参加し、その実力が認められた。

町田には日本代表の谷晃生を筆頭に4人のGKが在籍する。5人目となるだけに競争は厳しくなる。それでも「さまざまなクラブに参加しましたが、一番厳しいところで挑戦したかった。覚悟を持って戦い抜いて自分を強くしたかった」。

会見で人目もはばからず涙を流したように、周囲への思いやりに満ちた優しい人柄だ。町田の丸山竜平スカウト統括責任者は「僕は町田でプレーしたいです、とはっきり言ってくれた。覚悟を感じました。サポーターに愛される選手になってほしい」と期待を込めて話した。

日本生まれの日本育ち。国籍取得に向けても準備中という。ちなみに妹のイェーモン・ミャは女子バレーボールの強豪、下北沢成徳のエース。兄妹で励まし合い、それぞれの未来に向かっている。

「やり続けることが大事」。自らの人生、そして大学生活を振り返り、その思いを強くしている。

大学の仲間も見守った会見を終えると、町田のユニホームに身を包み、さわやかな笑みを浮かべた。これまでもたくさん流してきたであろう涙は、もう乾いていた。【佐藤隆志】