羽生、個人戦へプラス 中6日も良いオフ
[ 2014年2月8日11時4分
紙面から ]
日本男子初の金メダルへ光明が差した。6日のフィギュアスケート団体戦男子ショートプログラム(SP)に出場した全日本選手権王者の羽生結弦(19=ANA)が、97・98点をマークして1位となった。個人戦での最大のライバルとなる世界選手権3連覇中のパトリック・チャン(カナダ)らを抑え、堂々の滑りを披露。金メダルを狙う個人戦まで中6日の過密日程にも不安はなく、プラス面を強調した。7日、フィシュト五輪スタジアムで開会式が行われた。
即座に言い切った。「プラスですね」。個人戦への意味を聞かれたときだった。羽生の体に残った感覚が、団体戦から個人戦への好循環を示す。本番会場で試合をできたこと、他選手の仕上がり具合を測れたこと。チームとして日本に最高の勢いをつける1位奪取は、個人戦での頂点への懸け橋となる。「自分にとっては、今の自分がどうだというのは分かった」。その橋の途中であることを確認するかのように、何度もうなずく姿が頼もしかった。
自信をもって「今季は外していない」という冒頭の4回転トーループに入る。初の五輪でも安定感は変わらない。軸が細く高速で回るいつものジャンプを下りると、「パリの散歩道」のエレキギターサウンドでロシアの観客を酔わす。後半に組み込んだ2回のジャンプも無難にこなし、「ロシアの舞台で評価がいただけたのでうれしかった」と手応えをつかんだ。
幼少期から憧れた夢舞台。そのきっかけとなった02年ソルトレークシティー大会を見てとりこになったプルシェンコとも初対決になったが、「足も震えずにしっかりと最後まで全力で滑り切れたのは、自分自身を褒めてもいいんじゃないか」と平常心だった。それは日常的に自分を「観察」しているから。心身のコントロール能力に秀でているからだろう。
生来「凝り性」と話す。例えば趣味のイヤホンは50個以上持ち、練習用、ランニング用など使い分ける。その性格が近年は体に向かう。羽生の地元仙台で接骨院を営み、今回も同行している菊地トレーナーは「昔と今では知識が雲泥の差」という。練習後のマッサージでも、自分で状態を分析し、「腓腹(ひふく)筋をほぐしてほしい」など具体的な指示をしてくるようになった。日頃から人体関連書籍を読みあさり勉強する。メンタル本も手に取り、その操作法も学んでいる。成果は五輪の舞台でも出た。
個人戦(13日SP、14日フリー)では再びチャン、団体戦に出場しない高橋、フェルナンデスとも相まみえる。だが、前哨戦の団体戦で最高の演技を見せた意味は大きい。中6日空く日程も「逆に僕にとっては良いオフになるかな」と不安はない。さっそく7日を完全休養日に充てた。
12年12月GPファイナルをここソチで戦い終えた後、ロシアの英雄についてぽつりと言った。
羽生
初めて会ったときにプルシェンコから「オレを超えたとき世界が見えてくる」と言われたんです。
くしくも、その予言は同じ土地での五輪を迎えたこの日に現実になった。世界、それもその頂点が見えてきている。【阿部健吾】