前夜、7区阪口に「トップを30秒引き離すか、遅れても10秒以内で」と依頼。その通り4秒差でたすきを受けるとすぐに、東洋大・鈴木の背中につく。「風よけにつかった」と14キロ過ぎまで並走し、相手の横顔を見た。苦しそうな表情だ。目の前には遊行寺の坂。突き放すにはここしかない。自主的に飛び出した。
リードを51秒に広げ、初優勝をたぐり寄せた快走は、8区初の1時間3分台。「東海大8区記録の1時間5分27秒を切れればハッピー」と言うぐらい記録は気にしていなかった。阪口には「俺がおいしく料理したものを、お前がおいしく食べたな」と言われた。
黄金世代と呼ばれる同期の陰に隠れ、この日初めて大学3大駅伝(出雲、全日本、箱根)を走った。全国高校駅伝のエース区間「花の1区」を走った同期が1区鬼塚、4区館沢、阪口ら8人もいる中、小松はその大会すら出ていない。阪口も「小松を2年まで気にもしなかった」と話すように入学当初、エリート組が5000メートルを13分台で走るところ、14分20秒と大きな差があった。
「2年間は捨てる」と割り切った。目を凝らし、どのトライアルで結果を残せばレギュラー組に選ばれるか見極めた。エリート組の練習法も含め、部を徹底的に研究した。西出仁明ヘッドコーチは「良い意味でしたたかだった」と評した。
「高いピラミッドを造るにはしっかりとした土台が必要。少しは黄金世代に追いついたかな」と控えめに言った小松。阪口は「僕らがこのままではダメだと思うぐらい小松が頑張った。全体の向上につながる」と底上げを実感した。黄金世代が入学時に誓った「大学駅伝3冠」。最上級生になる来季、現実のものにする。【三須一紀】
◆小松陽平(こまつ・ようへい)1997年(平9)11月2日、札幌市生まれ。厚別中時代はバスケットボール部。東海大四高から陸上部。1万メートルの自己ベストは28分35秒63。両親、兄、弟の家族が8区沿道で応援した。172センチ、54キロ。