【萩野公介】21世紀初の銅メダル2個…世界水泳の低迷から日本がパリ五輪へ考えるべきことは?

  • 女子400メートル個人メドレー決勝、8位となった成田は悔しそうな表情で引き揚げる(2023年7月30撮影)
  • 男子100メートルバタフライ決勝 6着となった松元は悔しそうな表情を見せる(2023年7月29日撮影)
  • 世界水泳2023福岡大会第17日 競技開始前に士気を高める日本選手団(2023年7月30日撮影)

水泳の世界選手権(福岡)閉幕から一夜明けた7月31日、16年リオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダル萩野公介氏(28)が24年パリ五輪に向けて提言した。競泳日本代表はメダル0個となった94年ローマ大会後最低の銅メダル2個(男子400メートル個人メドレー=瀬戸大也、男子200メートルバタフライ=本多灯)。個人種目の自己ベスト更新は32人中4人(鈴木聡美、高橋美紀、小方颯、柳川大樹)で、12・5%にとどまった。1年での浮上へ不可欠なこととは-。

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結論から言えば、残り1年での挽回は可能だと思う。ただ、厳しい戦いになるのは間違いない。そのために今回を「いい経験だった」で終わらせず、考えなければいけないことがある。

どの時代も変わらないが、自己ベストを出すことの大切さを痛感した。400メートル個人メドレーのマルシャン選手(フランス)ら、大会を通して10個の世界新記録が誕生。一方で日本勢は日本新記録がなく、自己新記録も4人にとどまった。瀬戸選手のように高い自己ベストを持った選手は届かなくてもメダルを取れるが、それでも過去の自分を超えないと金メダルはない。金メダル、表彰台、入賞…と目標が違っても同様だ。まずはパリの舞台で自己ベストを超えるレースをしなければ、今大会のような苦しい戦いになってしまう。

そこで問われるのが日本代表のかじ取りになる。早急にすべきなのは、日本としてのパリ五輪の目標設定。今の日本は過渡期といえる。過去にならい「パリでメダル10個」と掲げても、選手は誰もついてこない。外から見て、現在はチームとして一枚岩でないように映る。来年へと走り出す前に選手、コーチ、スタッフが「1年後、日本はどんな結果を残したいのか」を納得いくまで話すことが不可欠だ。そうして具体的な目標を立て、初めて城の“石垣”の部分が出来上がる。

そこから城を築き上げる具体的な作業に移る。例えばオーストラリアの自由形がこれだけ強いなら(女子5冠オキャラハン、2冠ティトマスらを育てた)ディーン・ボクソール・コーチのところに武者修行に行くのもいい。リレーの目標を定めて、強化合宿で高め合うのも1つ。進むべき方向がバラバラなままで動けば、チーム内でも「何であいつらは…」と意見が出るかもしれない。日本として同じ絵を描けていれば、目標へ全員が納得して進める。

私もリオデジャネイロ五輪前年となる15年世界選手権は、右肘の骨折で出場できなかった。当時は東洋大の3年生。裏方のマネジャーを経験して、その時にしか得られない学びがあった。泳ぎたくても泳げない悔しさも感じた。今回もノーガードで打ちのめされた世界選手権後だからこそ、感じられたことがあると思う。いい風に捉えれば、世界選手権の結果がどうであれ、五輪は五輪。時間は限られるが、今からでも遅くない。絶対に諦めず、日本代表一丸でチャレンジをしてほしい。(16年リオデジャネイロ五輪金メダリスト)