<北京&ロンドン五輪競泳代表 伊藤華英(30)>
東京五輪・パラリンピックを目指す選手たちに「メンタルタフネス(心の強さ)」の大切さを伝えたい。ロンドン五輪後の12年9月に引退後、13年4月から早大大学院、14年4月から順大大学院でトップ選手のメンタルを中心に研究しています。現役時代にメンタルの弱さを感じたからこその選択でした。
2度の五輪に出場できたものの、現役時代に完全燃焼した感覚がありません。04年アテネ五輪予選は優勝候補ながら落選。全盛期だった08年北京五輪前は高速水着に翻弄(ほんろう)された。自分を客観視できない心の弱さもあり、その時点での最高のパフォーマンスを発揮することはできませんでした。
大学院では、北島康介、萩野公介選手らトップ選手の協力を得て、トップスイマーのメンタルを分析。メンタルの強い選手の共通点としてはポジティブな考えと強烈な自信が挙げられました。タイム競技のため、他人より自分に負けないとの強さも大切になります。あとコーチとの関係ですが、単なる主従関係ではなく、尊敬しながらもしっかりと自分の意見を言い合える関係になることがメンタルにもプラスになります。
米国、オーストラリアなど他の競泳強豪国の代表には必ずメンタルトレーナーが入っています。日本の競泳代表に関してはメンタルトレーナーはおらず、コーチが技術とともにメンタル面も指導しています。日本のコーチが優秀である証しでもありますが、一方で悩みを抱えた選手の逃げ場がなくなることも事実。日本も将来的にはメンタルの専門家が指導していくべきだと思います。
東京五輪を目指している選手たちは、これから何度も壁に直面し、悩むこともあるでしょう。自分も「頑張っても何でタイムが出ないんだろう」と苦しんだ経験はたくさんあります。そんなときは「いつでも水泳はやめられる」と考えてください。たくさんの選択肢の中から選んだ道。逆に、その覚悟と情熱が湧き上がるはずです。(2015年04月22日東京本社版掲載)
【注】年齢、記録などは本紙掲載時。