<JOC理事・広報専門部会長 藤原庸介(62)>

 いまJOCには大きく分けて2つの柱があります。1つは選手強化。私が担うのは、もう1つであるオリンピック・ムーブメント、教育を広く日本に根付かせていく活動です。広報専門部会長という立場から、対選手というよりは、対子供に力を入れています。

 そもそも五輪はなぜ行われているのでしょうか。その価値を理解してほしい。愛国心が高まる、自国の選手の優秀さをみせつける、これを目的にしては間違いです。日本では経済界からはアベノミクスの効果と相まって「景気を上向きに」などの声もありますが、副産物であり目的ではない。始祖にあたるクーベルタン男爵の思想に立ち返りましょう。

 彼は子供のころに普仏戦争を体験しています。なぜ戦争は起きるのかと考えた時に、ドイツ人の友達がいないことを要因と考えました。ドイツ人という固まりではなく、○○さんという個人と知り合いなら、争いは起きにくくなるだろうと。外国語は下手でもスポーツなら言葉はいらない。欧州といわず国際的な競技会を作ろうと決断しました。1894年のことです。

 いま、そこに戻ってみたらどうでしょう。知り合うことが平和が維持できるという考え方。それは選手に限らなくてもいい。学校の生徒1人1人が考えて接触することが、平和に間接的につながるという考え方があると思います。

 私自身は64年の東京五輪の時は小学校5年生。都内在住だったので、毎日選手村のある参宮橋に電車で通いました。外出する選手に誰彼構わずサインをもらい、初めて見るような国の人ばかり。各国の文字を見るだけでも楽しかった。それが原体験として鮮烈に残っています。

 あと5年、若い世代には同じような体験をしてほしい。私のように50年以上も色あせない経験を作り出す素地として、JOCができることがあります。全国で行っているオリンピアンが先生を務める教室などもその1つです。「平和の祭典」を作り出すのは選手だけではありません。1人でも多くの子供たちが、人とのつながりを持てるような五輪にしていきたいですね。

(2015年7月15日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。