<サッカー選手 J2熊本 巻誠一郎(35)>

 プロ14年目。僕は初めて「サッカーなんてやっている場合じゃない」と思いました。4月16日。熊本地震の本震で、地元は甚大な被害を受けました。僕も乗用車に寝泊まりしたり、家族や友人と連絡が取れず心配になったり、余震のたびにはね起きたりしました。

 でもそんな時、僕を支えてくれたのは、他でもないサッカーでした。これまでサッカーを通じて知り合った、全国のみなさんから連絡をいただき、一斉に支援物資が送られてきました。

 J2熊本の同僚と一緒に訪れた避難所で、初めて子供たちと一緒にサッカーボールを蹴った時のことも忘れられません。みんな本当に楽しんでくれました。僕らも元気をもらいました。

 サッカー選手同士の絆も感じました。浦和の選手などは、ACL掛け持ちの過密日程にもかかわらず、真っ先に熊本を訪れてくれました。槙野選手などは子供たちとのサッカーで、オーバーヘッドシュートまで決めてくれました。みんなが笑った。元気になった。

 レスターの岡崎選手も、プレミアリーグの優勝争いの真っ最中だというのに、地震直後に「自分にできることはありませんか」と連絡をくれました。先日は熊本にも来てくれた。

 ハリルホジッチ監督もそう。香川選手もそう。そして僕らの試合会場には、他クラブのサポーターの方も、たくさん応援に来てくださっています。僕らはまさに「サッカーファミリー」なのだと思いました。

 歌手の大黒摩季さん。女優の藤原紀香さん。タレントの上田まりえさん。サッカーをきっかけに知り合った各界の方も、僕らの元を訪ねてくださいました。そして一緒に避難所を回って、被災者のみなさんを笑顔にしてくださいました。

 これまでも満員の会場でプレーしたりして、スポーツの力を知る経験はありました。でも今回ほど、スポーツが多くの方を元気づけ、笑顔にするのだと強く感じたことはありません。

 だからあらためて、東京五輪にはいろいろなことを期待します。世界最大のスポーツイベントですから、きっと日本中を元気にしてくれることだと思います。大会を通して、スポーツをきっかけにしたたくさんの絆もできるはずです。

 大会をさらに盛り上げるために、僕らができること、やるべきこともあるのだと思います。20年を楽しみにしつつ、毎日を大事に過ごしていきたいと思います。

(2016年7月6日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。