今のサッカー界にとって、五輪の価値はW杯などに比べて高いとはいえない。強豪国がひしめく欧州の出場枠が3つしかないことなど、理由はさまざまある。ただ私は、どんなことをしてでも東京五輪で金メダルを、最低でもメダルを獲得しなければならないと感じている。五輪が持つ日本人への影響力が非常に大きいからだ。

たとえばサッカーが本大会でベスト8まで進んだとする。サッカー界としては悪くない成績だが、他競技はどうか。卓球の張本選手や競泳の池江選手など、10代のメダル候補が続々と出てきている。幼い子どもたちは選手の活躍を見て「自分もああなりたい」と競技を始めるものだ。現状、サッカー競技が他競技を上回る成績を収められる可能性はどれだけあるだろうか。

ましてや今回は東京で開催される。4年に1度ではなく、50年に1度の機会だ。注目はいやでも集まる。少子化が進む中で競技人口を確保できるかどうかは、ここで勝つか負けるかで大きく変わる。

五輪ではないが、14年W杯ブラジル大会で優勝したドイツの本気度はすさまじかった。わざわざブラジルの土地を買い取り、キャンプ地を自分たちで建ててしまったほどだ。普通は用意されているものを視察して決めるだけ。世界有数の強豪国であるドイツでさえ、勝つために大きな対価を払っている。五輪を見ても、16年リオデジャネイロ五輪では母国ブラジルが優勝のために英雄FWネイマールを参加させた。それだけの本気度がいま日本にあるかといえば、疑問だ。

競技を問わず、日本を沸かせたアスリートたちは“鍛錬は裏切らない”ことを教えてくれる。今年の平昌五輪で金メダルを獲得したスピードスケート女子団体追い抜きの日本チームは大会前に年間300日の合宿を行った。15年ラグビーW杯イングランド大会で南アフリカを破った日本代表も同様のやり方で、長期合宿の中で1日4度の練習をこなした。予算が少ない競技では、自腹で海外遠征に向かう選手の話もよく聞く。対してサッカーは、Jクラブの意向もあって主力クラスのメンバーを安定して呼べず、お金をかけて海外遠征をしても、いいチーム作りになっていない状況だ。

Jリーグで結果を残さなければならないクラブの考えは十分に理解できる。ただ、東京五輪へ向けた強化なのだから、たとえば代表の招集に強制力を持たせるといった特別なプロジェクトがメダル獲得には不可欠だ。今、A代表がW杯で優勝すると思っている人はほとんどいない。ならば五輪というステップからチャレンジすることは価値がある。前回五輪から4年間のうち約半分が過ぎた。他競技においていかれないためにも、サッカー界全体が一丸とならなければいけない。

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