私は現役時代、3段跳びの選手でした。今の女子の記録にも届かないような選手でしたが、高校の先生に「将来、日の丸をつけて五輪を目指せば」と言われすっかりその気になってしまいました。目指した五輪は、大学1年で迎える64年の東京五輪です。自国開催の五輪に出会い、すごく身近に感じられましたし、インパクトのあることでした。
五輪出場はかないませんでしたが、引退時はすでに教員になっていたので、今度は教え子を五輪にと夢が変わりました。自国開催の五輪には、それだけの魅力があって、いつか五輪に行きたいという思いは強く持ち続けていました。
何年も重ねて福島千里、北風沙織、寺田明日香らに出会いました。06年に冬場でも室内で練習ができる北海道・恵庭にインドアスタジアムが出来たのですが、高校時代は11秒67がベストだった福島が、どんどん能力を開花していきました。08年に11秒36の日本タイ記録を出して、同年の北京五輪女子100メートルに女子短距離で56年ぶりに出場し、最初に夢をかなえてくれました。思いは、思い続けないとかなわない。夢を持ち続けたからこそ、彼女たちに出会えたと思っています。
思い続けることは、指導者にとっても大事なこと。子どもたちが、小中高で大会に優勝した時、必ずと言っていいほど、将来、五輪選手になりたいと言います。その選手たちを、どう伸ばしていくのか、目先だけでなく、五輪までのプロセスを作ってあげないといけない。指導者にはそれだけの責任がある。選手と同じように競技と向き合って、指導していかなくてはいけないと思います。
福島の五輪への思い、速く走ることへの思いは誰よりも強いです。みんなが注目する自国開催でも、そういう姿を見せてくれるはず。彼女が現役でいるうちに、走りを見て、私も五輪に出るんだと思う若い選手が出てくることを期待しています。
私は取るに足らないけど、世界に出ていく選手に巡り合えたのは大きな財産です。東京五輪は、女子短距離が世界と戦い続けるための「思い」のバトンを渡す大会になってほしいと思っています。
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