日本全国のファミレスから牛丼チェーン店、コンビニまでがこぞってメニューに加えるなど、大人気の韓国料理が「チーズタッカルビ」だ。鳥と野菜をコチュジャン（唐辛子味噌）ベースのたれとともに鉄板で炒め、そこにチーズを加えて絡めて焼くことで、甘辛さにチーズのまろやかさと焼いた香ばしさが加わり、絶妙な味のハーモニーを奏でる。レシピを集めたサイト「クックパッド」の、食トレンド大賞２０１７大賞に輝き、日本の世相を最も反映し象徴する食を選ぶ、ぐるなび総研主催「今年の一皿」の急上昇ワード賞にも選出されるなど、２０１７年の日本グルメ界を席巻した。その人気は１８年もとどまるところを知らない。

　平昌冬季五輪（ピョンチャン・オリンピック）の競技開催地の平昌、江陵（カンヌン）が属する行政区・江原道（カンウォンド）の道都・春川（チュンチョン）は、タッカルビの本場だ。果たして、本場にチーズタッカルビはあるのか、あるとしたら、その味は…。五輪の取材の合間を縫って、取材の拠点を置く江陵から高速バスに乗り、約１時間半の春川に足を運んだ。

　街の中を歩いていると、大きな通りに金色の大きなニワトリの像が、圧倒的な存在感を放ち鎮座していた。台座には「ＲＯＯＳＴＥＲ　ＯＦ　ＣＨＵＮＣＨＥＯＮ　ＭＹＥＯＮＧＤＯＮＧ　ＤＡＫＧＡＬＢＩ　ＳＴＲＥＥＴ　１９６８」と彫り込まれていた。日本語に訳すると「春川のおんどり　明洞タッカルビ通り　１９６８年」といったところか。その脇の細い道の先に「春川明洞タッカルビ通り」がある。

　通りに一歩、足を入れただけで、タッカルビの店がひしめき合うように軒を連ねていた。店の外に張り出された推しメニューの写真を見ると…あった。「チーズタッカルビ」の文字が。幾つかの店舗を眺めてみると、鉄板で鶏肉と野菜を焼いた上にチーズをかけるスタイルと、焼いた鶏肉と野菜を溶けたチーズにくぐらせて食べる、チーズフォンデュスタイルの店との２タイプがあった。

　その中で、１９７０年（昭４５）に創業した屈指の人気店「ウミタッカルビ」を選んだ。店内で聞いてみると、通常のタッカルビにチーズをオプションとしてつけることでチーズタッカルビになるという。ウミタッカルビは店員が各テーブルを回って焼くスタイルで、鶏肉、キャベツ、ネギ、いも、韓国のもちのトッポギなどをコチュジャンのたれで炒める。大きな鉄板の上の具材を、鉄ベラで押しつけ、焼き付けるように炒めると香ばしい香りが…。全体に火が通ると、上から鉄板のふたをして蒸し焼きにして、ふたを取ったところで別皿に盛られたチーズを振り掛ける。チーズは熱で一気に溶け、へらで皿に盛るとチーズが延び視覚からうまさが伝わってくる。

　一口、食べてみた。鶏肉が驚くほどプリプリしていて、かみしめるとジューシーな肉のうま味が口の中いっぱいに広がってきた。そこに、甘辛いコチュジャンが香ばしさを放ち、さらにチーズのまろやかさが絡まり…何とも言えないうまさに、はしが止まらない。とにかく、鶏肉の生きが良いのが印象的だった。

　ベテランの女性店員に、話を聞いてみた。

　－日本でチーズタッカルビが流行っているのは知っている？

　女性　知っているわ。日本からも、３回も撮影に来たわ（笑い）私も取材を受けたわよ。（日本で流行るのは）いいことだわ。

　－この店で、チーズをかけたのは、いつから？

　女性　４、５年前から、かけているわ。

　－春川明洞タッカルビ通りには、タッカルビの専門店は何軒ある？

　女性　１９軒ね。

　－平昌五輪について？

　女性　やっている実感はありますよ。五輪をやっている平昌、江陵からも食べに来て欲しいけど…大会期間中は来ないわね、きっと（苦笑い）

　女性に、１９６８年にスタートした春川明洞タッカルビ通りの歴史についても聞いてみた。当時の春川は、工場も地場産業も何もない土地だったという。その中、ニワトリをたくさん飼い、生んだ卵を売る養鶏業者が多かったことから、そこに目を付けた春川市内のおじさん、おばさんたちが相次いでタッカルビ屋を始め、今に至るという。

　春川明洞タッカルビ通りが出来て、今年でちょうど５０年。そのタイミングで、江原道では平昌五輪が開催され、日本ではチーズタッカルビが一過性のブームから、家庭でも作られる定番メニューへと広がりつつある段階に来ている。平昌五輪は終盤に差しかかっているが、チーズタッカルビに舌鼓を打ちながらテレビで観戦したり、本場の味を楽しみに春川に足を運んでみては、いかがだろうか？【村上幸将】