冬季五輪は、夏のオリンピックに比べて印象が薄い。規模も小さく注目度も低い。40代以上なら、カール・ルイスはほとんどの人が知っているが、イタリア代表スキー選手のアルベルト・トンバを知っている人は少ない。
札幌と長野で冬季五輪が開催されたことは、日本人なら知っているだろう。しかし世界でそれを覚えているのは、何人いるのだろうか。今回の平昌(ピョンチャン)も、時間の経過とともに、人々の記憶から薄れていくだろう。
1月9日、板門店で行われた南北高位幹部会談で平昌五輪に北朝鮮の参加が話し合われた。17日には実務者会議が開かれ、その後、国際オリンピック委員会(IOC)との協議をへて20日に正式決定した。スキーやフィギュア・スケートなど、5種目46人の北朝鮮選手団が訪韓する。最も注目されるのは、女子アイスホッケーで、五輪では史上初となる南北単一チーム結成が決まったことだ。(※この単一チームは韓国国内では大きな波紋を呼んでいるが、この件は次回以降触れることにします)。
大会期間中には、文化交流も行われる。北朝鮮を代表する芸術団(三池淵管弦楽団)が、ソウルなどで2回、公演を予定している。21日から2日間、同楽団の玄松月(ヒョン・ソンウォル)団長がその責任者として韓国入りし、現地を視察するなど、最終点検を終えた。玄氏が訪韓する映像は、世界中に流れている。
核問題などで非難を浴び、経済的制裁を受けている最中の北朝鮮の登場で、平昌は一気に世界から視線が向けられた。国際社会から孤立され、自らも会話を断っていた北朝鮮が世界への扉をわずかに開けた瞬間を逃すまいと、大会期間中に米国はマイク・ペンス副大統領の韓国訪問が発表された。日本からも安倍首相が駆けつける。まだ訪韓する北朝鮮の高位幹部の名前は発表されていないが、大会期間中に米北会談が実施される可能性がある。
「政治とスポーツは別」。「政治がスポーツに介入してはいけない」とも言われる。オリンピックを政治的に利用するのは良しとしない風潮があるのも事実だ。実際に、韓国国内では最大与党の自由韓国党や保守的なメディアの一部が、北朝鮮の参加に対する韓国政府の対応、単一チーム結成に否定的な意見を出している。
韓国国内では、北朝鮮の参加を歓迎する意見が多いが、反対の意見があるのも事実だ。しかし時間を少し前に戻してみてはどうか? 北朝鮮の参加が不透明だった昨年末まで、ドイツ、フランス、オーストリアなど複数の国が安全面を考慮し、選手団の派遣を見合わす可能性を示唆した。他にも多くの国が検討に入った。だが、もう、不参加の話は聞こえてこない。北朝鮮の参加で、ある意味、大会期間中の安全は確保された。そして平昌は、人々の記憶にも、永遠に残るのではないだろうか。【盧載鎭】
◆盧載鎭(ノ・ゼジン) 1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。88年までソウルで育ち、自宅がオリンピック・メイン・スタジアムの蚕室(チャムシル)近くだったため、大会の雰囲気を近くで堪能できた。ソウル五輪直後の88年10月に来日し、96年に入社。20年間サッカーを担当し、2年間相撲担当。現在はフェンシングに興味を持っている。2児のパパ。