アイスホッケー女子のコリアは、韓国と北朝鮮の混合チームで、今大会の象徴と言える。では、そのチームが結成された経緯は?
今月初め、韓国・文体部(日本で例えるなら文科省)の都鍾煥(ド・ジョンファン)長官が、韓国で最も聴取率の高いラジオ番組「金於俊(キム・オジュン)のニュース工場」に出演して明かした内容を紹介します。
最初に提案したのは韓国。昨年6月に韓国で開かれたテコンドーのイベントで北朝鮮のチャン・フンIOC(国際オリンピック委員会)委員に持ちかけ、その後、IOCのトーマス・バッハ会長にも説明した。当初は南北が交渉して実現させる-、との趣旨で提案したが「この件は我々に任せてほしい」とのバッハ会長の意向があり、極秘裏にIOC主体で計画を進め、交渉のタイミングを計っていた。
以降、北朝鮮の核や長距離ミサイル問題などで、実現性はどんどん薄れていった。しかし今年元日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「平昌(ピョンチャン)オリンピックに参加する意向がある」と発表し、急転した。同9日に板門店で南北高位級会談が実施され、北朝鮮の参加、さらに女子アイスホッケーの南北単一チーム結成が決定した。
今までは南北が単一チームを結成すると、韓国では歓迎ムード一色だった。しかし今回は若者を中心に、反対の声が広がった。時代の変化だろう。雇用の不利益-。普段、コンビニなどでアルバイトをしながら、練習する選手たちの日常が報道され「北の選手たちが加わると、今まで苦労してきた南の選手たちの出場機会がなくなる、もしくは減るのでは?」との疑問があったからだ。
ちょうど、10日に韓国のアイスホッケー・チームが米国遠征を終えて帰国した。その日のうちに、都鍾煥長官が、同競技幹部と話し合い、カナダ人のセラ・マレイ監督の意向も聞いた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領も選手たちと会うなど、丁寧に単一チーム結成を進めた。選手の意向、将来の希望を政府が積極的に検討していくことを約束した。
都鍾煥長官と選手たちの話し合いで選手たちの要望が明らかになった。「(1)安定的に運動できる実業団の結成。(2)大学に女子チームをつくる。(3)支援の継続」だった。直後、水原市庁が、女子アイスホッケー・チームの発足を発表した。現在、5つの大学に男子チームがあるが、女子チームの設立が検討されている。
コリアは、初戦のスイス、2戦目のスウェーデンに負け、2連敗の日本とともに1次リーグ敗退が決まった。目標は22年北京冬季オリンピックで、8強入りすることだという。環境が整えば、不可能な話ではないだろう。
日本も韓国同様、女子アイスホッケー選手の環境は恵まれていないのが現状だ。アルバイトなどで生計を立てている選手が多く、一部主力選手はJOCなどの協力で、企業に籍を置いて仕事と練習を併用している。オリンピックなど、世界的なイベントには目が向けられるが、その期間が過ぎれば、どんどん我々の記憶から薄れていく。08年北京オリンピックで金メダルを取ったソフトボール、国民栄誉賞を授与したなでしこジャパンも、その部類にはいるだろう。
他にも我々の記憶から薄れていき、まったく記憶されない、その当時のヒーロー、ヒロインはたくさんいるはず。それを批判するつもりはない。ただ、夢に向かってまい進する彼らの挑戦に、国籍関係なく、敬意を表したい。【盧載鎭】