いよいよ始まる平昌冬季大会。史上最強の日本選手団にメダルラッシュの期待は高まる。一方、テレビや新聞が追うのは、北朝鮮の動向だ。選手に続いて芸術団や応援団が渡韓。9日の開会式には金正恩朝鮮労働党委員長の実妹である金与正氏も出席するという。

 参加申請期限を過ぎながらも北朝鮮の「ごり押し」で3競技に22選手が参加。女子アイスホッケーでは、韓国との合同チームも結成される。五輪では06年トリノ五輪以来の「統一旗」での合同入場行進。北朝鮮の要求はエスカレートするばかりで「まるで平壌五輪だ」と、韓国内でも政府の弱腰な対応を非難する声が出ている。

 国際オリンピック委員会(IOC)の五輪憲章には「いかなる政治活動も禁止する」とあるが、北朝鮮が政治利用していることは明らか。米国も日本も「プロパガンダは許さない」と厳しい目を向ける。日本国内でも、北朝鮮の平昌五輪参加には厳しい声が出る。

 平昌五輪をきっかけにした「融和」は疑問だ。女子アイスホッケーの韓国代表選手も、決して歓迎はしていないだろう。それでも今回の北朝鮮参加はポジティブに考えたい。少なくとも開催中は大会の安全は保証される。最も脅威だった北朝鮮が韓国に“仕掛けてくる”ことはないのだから。

 88年ソウル五輪は不安だった。前年に起きた大韓航空機爆破事件は五輪開催阻止のためといわれた。開幕前には、金浦空港でテロ騒ぎまで起きた。「北朝鮮が攻めてきたら、どうなるんだ」。冗談ではなく、本気で口にする選手もいた。大会が始まり日々の取材に追われたが、頭の片隅には常にテロの恐怖があった。

 今大会では、選手は何の心配(少なくとも北朝鮮に対する)もなく競技に打ち込める。8日に平壌で軍事パレードが行われるなど不安はあるが、大会中は北朝鮮が選手団を引き揚げでもしない限りミサイルが飛ぶことはない。

 ソウル五輪は北朝鮮で一切報道されなかったが、今回は選手の活躍が報じられるはずだ。夢物語かもしれないが、五輪を見て北朝鮮が考えを変えるかもしれない。2年後、東京大会が何の不安もなく行われること-。平昌がそのきっかけであってほしい。【荻島弘一】