葛西が8度目のオリンピック(五輪)を飛んだ。得意とはいえないノーマルヒルで21位に食い込んだ。26年間、ルール変更や用具の進化に対応しながら競技レベルを保つ努力は大変だったはず。世界的に「レジェンド」と尊敬されるのも当然だ。と思って見ていると、ベテランが次々に舞った。40歳のアホネン(フィンランド)、36歳のアマン(スイス)…。
かつて他のスキー競技と同様にジャンプも「選手寿命は30歳」といわれていた。しかし10日のノーマルヒルに出場した50人のうち12人は30代。10代選手も4人いたが、年齢層は確実に高くなっている。
トレーニング方法の進化や栄養、休養面の研究が進んだこと、年齢を重ねても競技に専念できる環境が整ったこと…。ベテラン選手が増えた理由は1つではない。メンタルの部分も大きい。「葛西効果」が年齢を引き上げたのだ。海外の選手が葛西に憧れ、葛西を目指す。海外の選手だけではなく、国内でも同じだ。
「引き際の美学」という言葉が日本にはある。「絶頂のうちに辞める」「後進に道を譲る」と現役に未練を残しながら身を引く選手も多い。しかし、葛西らベテラン勢の活躍や今月26日に51歳になるサッカー界の「キング」カズ、所属先が決まらないまま44歳で現役を続けるイチローらの存在で「競技を続ける」ことがリスペクトされる空気に変わってきている。
「続けてもいいんだ」という思いで、多くのベテラン選手が東京五輪を目指している。周囲から「もうそろそろ」と心配されながらも「ボロボロになるまで」という選手は少なくない。選択肢が増えることは、選手にとってもスポーツ界全体にとってもいいこと。葛西の頑張りが、日本スポーツ界の「意識」も変える。
夏季大会では馬術のイアン・ミラー(カナダ)が10回出場している。9回にもヨットと射撃の選手がいるが、3人とも70代だから更新は難しいだろう。競技が違うから比べるのは乱暴だが、あと2回で大記録になる。「こうなったら、きりがいい10回を」と葛西は話している。札幌が招致を目指す26年冬季大会、レジェンドが「夏冬を通じた五輪最多」の大記録を作るかもしれない。あと8年、とことんやりきってほしい。【荻島弘一】