今度は転ばなかった。それでも、まだ金メダルに届かなかった。女子スノーボードクロス、リンゼイ・ジャコベリス(米国)は4位に終わった。日本中が注目したフィギュア男子SPの「裏」で世界はエキサイティングなレースに酔った。

 ジャコベリスの名を知らしめたのは、06年トリノオリンピック(五輪)。2位を3秒も離してトップを滑りながら、最後のジャンプで「不要な」グラブを入れて転倒。後続に抜かれて2位になった。02年ソルトレークシティー五輪男子ショートトラック、他選手の転倒で最後尾から金メダルに輝いたブラッドバリー(オーストラリア)に並ぶ名(迷?)シーンだ。

 その後もジャコベリスは転び続ける。雪辱を期した10年バンクーバーは準決勝のコースアウトで5位、14年ソチもトップを滑っていた準決勝でコケて7位。世界選手権の同種目で7回優勝、Xゲームも10回制した女王も、なぜか五輪だけは縁がなかった。それでも、大会ごとに圧倒的な存在感を見せ、負け続けることでその輝きは増している。

 4回目の平昌(ピョンチャン)は、予選から慎重だった。「転んじゃいけない」という思いが、伝わってきた。鬼門の準決勝も2位通過、決勝でもスタート直後にトップに立ち「金メダル」の期待を抱かせた。しかし、その後抜かれて4位。優勝はイタリアのモイオリ、連覇を狙った「ヒゲ」のサムコバ(チェコ)が銅メダルだった。

 勝つことは大切だが、それ以上に「魅せる」のがプロ。あの故クライフ氏も「ぶざまに勝つよりも、美しく負けろ」と説いている。決勝戦途中までトップで「前フリ」は十分だった。「転ぶのでは」という心配と期待の混じった異様なムード。テレビ実況もゴール直前の転倒者に、思わず「ジャコベリスですか?」と言葉を発する始末だった。今回は見事「完走」したが「また負けた」で、十分五輪でのキャラは確立されている。

 採点競技が多くて頭が疲れる大会中盤に、分かりやすい競技はいい。ショートトラックのように順位降格や救済もなく、ゴールを切った順番だけでメダルの色が決まる。日本で生中継がなかったのは残念だったけれど、前日の男子とともに楽しめた。この競技が、冬季五輪の魅力の1つになっているのは間違いない。【荻島弘一】