見事な金メダル、完璧なレースだった。21日のスピードスケート女子パシュートは、3人の動きが美しかった。わずか幅1ミリのブレード(刃)を支えに時速50キロで足並みをそろえる。個人で劣っても、3人なら勝てる。「チームの力」で「個の力」をねじ伏せるストーリーは日本人の大好物だ。
金、銀、銅のメダルに輝いたエース高木美にスポットが当たる。スタートの1・75周とラストの1・75周の計3・5周。全6周の半分以上を引っ張ったのだから、その力は大きい。
実際に高木美のスタートでオランダをリードし、2番手の佐藤、3番手の高木菜で逆転され、最後は高木美で再逆転した。力が圧倒的なのは確かだが、その力を存分に出させた佐藤と高木菜こそが勝利の立役者だと思う。準決勝に出て佐藤を休ませた菊池を含めた3人の力こそが「チーム力」だといってもいい。
3人は「いかにエースにつなぐか」「高木美の力をどう引き出すか」が役目だった。誰もが主役になりたい大舞台で、高木菜と佐藤と菊池は脇役に徹した。もちろん、高木美は3人を信じ、エースとして力を出し切った。「ワンライン」なのは滑走スタイルだけではない。4人の気持ちが「ワンライン」だったからこその「チーム」。内紛騒ぎで最下位に沈んだ韓国とは対照的だった。
23日に準決勝でメダルに挑むカーリング女子も同じだ。エースのスキップ藤沢にいかにつなぎ、その力を最大限に引き出すか。リード吉田夕、セカンド鈴木、サード吉田知が脇役に徹して、つながれた思いをエースが得点にする。その戦い方を全員で共有するからこそ「チーム」になる。
21日、名脇役として知られる大杉漣さんが亡くなった。サッカーの取材で話を聞いた時「与えられた自分の仕事をしっかりとこなすことだけ。サッカーも同じだけれど、本当は主役も脇役もないですよ」と笑っていた。それでも、脇役がいてこその主役。それこそが「チーム」。脇役に徹して与えられた役割をこなした佐藤、高木菜、菊池は22日、高木美とともにメダル授与式に臨んだ。金メダルを手に笑顔を見せた3人は、全員が主役だった。【荻島弘一】