フェンシング男子フルーレの太田雄貴(30=森永製菓)が、現役引退の意向を示した。第1シードで臨んだ個人で初戦の2回戦で地元ブラジルのトウドに敗れ、「これで未練なく現役を退ける、というくらいスッキリしている。こんな幕切れだとは思わなかったが、ずっこけて負けるのも僕らしいかな」と、晴れ晴れとした表情で話した。
18歳で04年アテネ大会に初出場し、08年北京で個人、12年ロンドンで団体の銀メダルを獲得した。ロンドン大会後に1度は競技を離れたが、東京五輪の招致活動に携わって五輪への気持ちが再燃。1年以上の休養を経て復帰した。昨年の世界選手権では日本人初の金メダルを獲得し、今大会を集大成と位置付けていた。
大声援を受けたブラジル選手に押されるように先手を取られる展開が続き、最後は13-12から3連続でポイントを失った。「世界選手権はうまくなりたくて、おもしろくてとれた副産物が金メダル。五輪は言葉でなく、心の底から金メダルをとりたいと思わないとあらためて思いました」と言い、「覚悟が足りなかった」と繰り返した。
かつて女子サッカーの澤穂希さん、女子レスリングの吉田沙保里らと日本のスポーツ界の価値を高める活動をしたいと話し合った。今後について「日本では引退したあとの選択肢が少ない。指導者だけでなく、他の選択肢を増やせる役割をして、違った意味で驚かせたい」と野望を明かした。「太田雄貴掛ける(×)オリンピックはこれで終わり。僕を育ててくれた五輪にめちゃくちゃ感謝しています」。かがんでピストに触れ、涙なく剣を置いた。【鎌田直秀】