女子57キロ級で2連覇を狙った松本薫(28)は銅メダルに終わった。
3位決定戦に勝ち、引き揚げてきた松本の報道陣への一言は、やはり松本だった。「ここ(取材エリア)にいたから見えなかったと思うんですけど、ごめんなさい(手を合わせるしぐさ)しました」。質問は客席にいた家族へのあいさつ。取材者が「ここ」にいたことに気づき、気にしてしまう気遣い、実は繊細な心は、銅メダルで「煮えくりかえってます、腹の中は」と言えど、変わらなかった。
野獣のニックネームが先行し、本人も沿うように発言していたが、本性はイメージとは異なる。代表選考会の4月選抜体重別選手権の準決勝で敗れると、ロンドン五輪銀メダルの杉本美香さんに連絡。「厳しく指摘してくれる人がいない。足りないものがある」。勝てない。時には親友の前でだけ泣いた。稽古中は泣けなかった。不安に揺れる心は、日本代表チームのために隠した。「金メダリストだから」。常にイメージを追った。
五輪の重圧は「ないと言い聞かせているだけで感じていた」と認めた。準決勝のドルジスレン戦、不用意に背負い投げをくらい24秒で一本負けした。その前の背負い投げで、「全然効かなくて大丈夫」と過信した。通常ありえない警戒の解除こそ、重圧のなせる仕業だったかもしれない。
鋭い眼光に、特異な発言。柔道界に松本ありを発信し続けた4年間を終えた。昨年、「今の役割は今度の五輪で終わり。20年(東京五輪)の時には、違う役割になっていると感じています」と述べた。この日は「分からない」としたが、引退後については既に考えているだろう。その気の使い方が生きる、彼女だけの道はきっとある。