リオデジャネイロ五輪代表のセーリング女子レーザーラジアル級の土居愛実(22=慶大)と、同じくセーリング男子470級の土居一斗(24=アビーム)はきょうだいだ。その2人は26日、成田空港発の航空便で経由地ニューヨークに向かった。そこからリオに向かい、きょうだい同時出場の大舞台に立つ。
重量挙げ選手一団が到着し、第2ターミナルのカウンターは混雑していた。三宅や八木を取材するマスコミが集まり、それを遠巻きに一般客が見守る。それぞれの所属先の関係者も集まり、かなりのにぎわいだ。そんな中で、土居きょうだいの傍らには両親が静かに立っていた。母良子さんは兄一斗と楽しそうに談笑し、父修さんは一斗とペアを組む今村公彦(32=JR九州)と熱心に話し込んでいた。妹の愛実はロンドン五輪に続く2大会目の出場だけに、落ち着いた空気感を醸し出している。
ロンドン五輪では体操の田中3きょうだいが同時出場を果たして大きな話題になった。リオ五輪でもカヌー・スラロームの矢沢一輝と亜季がきょうだいで五輪出場を決めている。きょうだいが同時に五輪に出ることについて母良子さんは優しい口調でこう言った。「本当に幸せです。ロンドン五輪では愛実が出場しましたが、兄のほうは出られませんでした。今回も、兄の方は国内予選が厳しい状況で、出られるかどうかわからない状況で、私が言うのも何ですが、厳しいのかなと思っていました。ですから、兄が大逆転で五輪を決めてくれて、本当に喜びも格別でした。リオも妹の愛実だけが出場していたとしたら、兄の気持ちを察すると、何とも言えない気持ちになりましたから」。
一方の父修さんは、にこにこと笑いながら、兄一斗の五輪決定時を振り返っていた。「夜中の1時か、2時でしたね。一斗から国際電話で連絡はあったんですが、公式記録は違っていたんですよ。だから、どっちなんだと。喜びたいんですが、間違ってたらと思うと。冷静に考えれば、出場している選手がそう言っているんだから、間違いないとは思ったんですが、何度も確認しろ、って言ったんです。でも、妻は号泣、妹の愛実も号泣、そして私は確認、確認でした」。
おそらく、日本国内でもこんな幸せな思いに浸れる両親はそう何組もいない。良子さんは「そうでしょうね。本当に幸せだと思います」と、うなずいた。もちろん、きょうだいの所属先への感謝の気持ちも強かった。「セーリングは親の経済力だけではどうにもならないんです。だから、アビームさんも、妹が支援を受けているセイコーさんにも感謝の気持ちしかありません」と、修さんはきょうだいを支える周囲の存在を強調した。
きょうだいは空路、リオへ飛び立った。修さん、良子さんも数日後には中東を回ってリオへ向かう予定だ。「もう、リオへのチケット買うのは、思い切りが必要ですね。思い切って、買いました」と、修さんは楽しそうに笑った。長旅の先には、きょうだいの晴れ舞台が待っている。幸せを感じる両親と、そんな両親に何の不安も感じさせず、リラックスした表情で応じるきょうだい。重量挙げ選手団を見送る活気の中、土居家族4人の周りだけは緊張感とは無縁の、楽しげなゆったりした時間が流れていた。