お父さんは、きっと見てくれているはず-。女子58キロ級でトータル218キロの日本新記録で5位入賞した安藤美希子(23=いちご)の父美生さん(60)は美希子が小学1年生の時、突然脳出血で倒れ、右半身が不自由に。脳内の言語をつかさどる部分にも障がいが残ったため、会話も出来なくなった。安藤は、合宿や遠征以外は千葉県白井市の実家に住む。父の介助をすることを念頭に、家族と一緒に過ごす時間を大切にしながら競技を続けてきた。
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6月18日、都内で行われた日本協会主催の壮行会。あと1歩のところで五輪出場を逃し、ショックで2カ月間バーベルを触れなかったあの時から4年。安藤は晴れ姿を見せようと、母貴子さん(59)に父を連れてくるよう頼んでいた。「大変だからやめようと言ったんですけど、どうしてもと言うので」と貴子さんは笑っていた。娘のため、車いすに乗せた美生さんと一緒に会場に訪れた。
「和食?洋食?」。「肉?魚?」。安藤は2択の質問で反応を見て、意思の疎通を図ろうとしたこともあったが、美生さんは嫌がっているようにみえたという。今は理解してくれていると信じ、自分の話を語りかける。リオへ出発する2日前には、合宿先の赤羽のナショナルトレーニングセンターからいったん実家に帰った。「お父さんこれから行くからね」と公式スーツを着てみせた。
現地リオには母貴子さんが応援に訪れ、美生さんはその間だけ、施設に入り留守番する。安藤は「自分は注目選手ではないので、試技をしているところがテレビで映るかどうか…」と話していた。今回は確かに日本で生中継はなかった。テレビのニュースかインターネットを通じ、父が自分の姿を見てくれたかどうか、どう感じたか、確認するすべはない。だから、観戦できる可能性のある東京五輪で、今度こそバーベルを上げる姿を直接見せたいと願う。
目標だった入賞を達成して湧き上がるのは悔しい思いだった。「弱さを痛感した。東京ではメダルを取らないといけない」。4年後へ、思いをつなげる。【高場泉穂】