【佐藤駿〈上〉】夢はありますか- 答えににじんだスケーターとしての生き様
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第26弾では、2月の4大陸選手権で銀メダルを獲得した佐藤駿(20=エームサービス/明治大)が登場します。2019年ジュニアグランプリ(GP)シリーズでは金メダル。2月6日で二十歳となり、シニア5季目の来季に向けた充電期間に入っています。
全3回でお届けする連載の上編では「スケート人生の夢」を掘り下げます。
そこには5歳の誕生日に氷に乗った日から歩んできた道と、重なる部分がありました。(敬称略)
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成し遂げたい「最後」の姿とは
取材時間が、1時間半に差しかかろうとしていた。
「夢はありますか」
上海での4大陸選手権を終え、一息ついた2月中旬。二十歳となっていた佐藤は、シンプルな質問の答えを少しばかり考えていた。
「そうですね…。今は何というか…。スケートは好きなので、この好きなスケートを最後までやり遂げたい。僕の演技を、世界にもですし、ファンの皆さんに見てもらえるように『もっとたくさんの試合に出たい』という思いが強いです」
「最後」とは何を示すのか。五輪など何かの舞台なのか、心身の限界なのか。
そんな問いかけを受け、佐藤は少しほほえんだ。
考え込むことはなく、次の言葉はすぐに出てきた。
「4回転全部…4回転を6種類入れたいですね。アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコー、トーループ。そこまでいって、4回転を(演目に)全種類入れて終われたら『格好いいな』と思います」
「スケート人生の基盤となるようなシーズン」
世界で指折りのジャンパーであることを、国内外に証明した演技がある。
2019年12月7日、イタリア・トリノ。
高校1年で臨んだジュニアGPファイナルだった。あの日を振り返って言う。
「全く緊張がなかったんです」
会場はトリノ五輪で荒川静香が金メダルをつかんだパラベラ競技場。同世代のトップ6人が集う場で、五輪マークが視界に入っても、不思議と自然体だった。
「『(拠点の)埼玉での練習だ!』と思って、本当に練習通りになりました」
2日前のショートプログラム(SP)で首位と5・20点差の3位につけていた。勝負のフリーの演目は「ロミオとジュリエット」。歓声に両手を挙げて応え、上半身の脱力を心がけながら、リンク中央に立った。
軽やかさを感じる振り付けから徐々にスピードを上げ、後ろ向きの助走を経て左足のエッジを倒した。右つま先を氷に突いて踏み切り、駒のように鋭く4回転したルッツを降りきった。
基礎点11・50点。出来栄え点(GOE)2・96点。
拍手に曲の盛り上がりが重なり、対角の位置に進むと、次に4回転-3回転の連続トーループを決めた。
基礎点13・70点。GOE1・76点。
無心だった。
音に吸い込まれるように跳んだ、3本目のジャンプも4回転トーループ。成功させるとコーチの日下匡力が、右拳を振っていた。
基礎点9・50点、GOE3・26点。
4回転を軸に組み立てた3本のジャンプで、一気に42・68点をたたき出した。
満面の笑みで演技を締めくくり、総立ちの観衆を見渡した日の記憶は鮮明だ。
「本当に100点の演技ができたと思います。今でもなかなか100点の演技ができないんですが、あの時は本当に100点です」
フリーは177・86点。合計点は当時ジュニア世界歴代最高の255・11点をマークした。
日本男子の頂点は小塚崇彦、羽生結弦、宇野昌磨に続く4人目の快挙だった。
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松本航Wataru Matsumoto
大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。
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