フィギュア2024.10.28 11:00

勝部晃多

◆横井きな結（よこい・きなゆ）2004年（平16）12月12日生まれ、愛知県名古屋市出身。4歳で競技を開始。南天白中1年時の2017年に全日本ノービス選手権（Aクラス）で銅メダルを獲得し、翌2018年のチャレンジカップで国際大会デビュー。同年にジュニアグランプリ（GP）シリーズ出場。中京大中京高－中京大と進み、大学1年時の2023年に全日本ジュニア選手権で8位入りし、同年末に全日本選手権初出場。2024－25年シーズンは自身初めて強化指定選手に選出。4学年上の姉は、2018年全日本ジュニア選手権優勝のゆは菜。身長157センチ。趣味はドラマ鑑賞。

気付けば氷の上にいた

「ホントに記憶がないんですよね」

フィギュアスケートを始めたきっかけは何だったのか。その質問に、横井は苦笑を浮かべながら幼い日の記憶をたどりはじめた。

同世代の仲間たちの多くが、先輩スケーターや五輪に出場するスター選手に憧れて競技を始めたと懐古する中で、これと言った理由が思い当たらない。

20年近く、続けてきた明確な動機も見当たらない。

今思い返すと、それこそ自然なことだったのかも知れない。気付けば、氷の上にいるが当たり前の人生だったのだから。

赤ちゃんの頃の横井きな結（本人提供）

2004年の冬の日。名古屋市の病院で横井家の次女として生まれた。

いとこには後にWBO世界スーパーフライ級王者に輝くことになるプロボクサーの田中恒成。親戚には「恥ずかしながら帰って参りました」の言葉で一世を風靡（ふうび）した残留日本兵の横井庄一がいる、力強い男たちの家系に育った。

4歳上の姉ゆは菜は、そんな遺伝子の一端を受け継いだのか、幼少期から元気いっぱいな性格。母が乳児だった横井を抱えながらわんぱくな長女を遊ばせることができる施設はないかと探し、行き着いた場所が今も拠点とする邦和スポーツランドのリンクだった。

「今も、すごく年上のお姉さんたちから『ベビーカーに乗ってずっと来ていたんだよ』って、『ちっちゃい時はこんなんだったのに』みたいな感じで言われます。（スケートを始めるのは）自然な流れだったんでしょうね（笑い）」

生後まもなくから触れた氷の空気。覚えてこそいないが、アイデンティティーが形成される過程で、多大な影響を与えたことは言うまでもない。

4歳の時に、姉の後を追うようにフィギュアスケートの道へ没頭した。

一番古い記憶は、5歳の時のものだ。岐阜のリンクで、後の世界ジュニア選手権で銅メダリスト壷井達也のお古のスケート靴を履いて、姉とその仲間たちと滑ったこと。ほおをなでる涼やかな風が心地よかった。

姉のゆは菜（右）と写真に納まる幼少期の横井きな結（本人提供）

身近な存在だったトップスケーター

小学2年生の時にクラブに入り、“競技者”としての本格的なキャリアをスタートさせると、めきめきと腕をあげていった。

小5の5月にダブルアクセル（2回転半ジャンプ）を習得。依然として憧れの存在やこうなりたい目標があったわけではないが、ただうまくなりたい一心で練習に励んだ。

当時一緒に練習していたのが、同い年の河辺愛菜。小3の時にグランプリ東海から移籍してきたスター候補生だった。

それから7年後に北京五輪に出場することになる11歳は、すでにこの時から2種類の3回転ジャンプを習得していた。

「愛菜ちゃんが邦和に来た時から、私よりはるかにレベルが上だったし、その時からすごく強い心を持っていたので、『負けたくない』とも思えるような存在ではありませんでした。でも、愛菜ちゃんのおかげでモチベーションも上がってきて、背中を追いかけなきゃみたいな感じでやっていました」

同級生に引っ張られるように、着実に成長の形を示していった。

小5時の2015年8月。同じ日にトーループ、サルコーと2種のトリプルジャンプを成功。同年に自身初めて「全日本」を冠する大会である全日本ノービス選手権Bに出場を果たした。

フリーの演技のみで争われる結果は61・33点の7位。ジャンプにミスが相次いだことが悔しかったが、2位の河辺とは約9点差だった。

練習通り跳べていれば、表彰台に乗れていたかも？　そう、自身の可能性に気付かされた大会になった。

「正直、愛菜ちゃんと一緒に試合に出るなんて思ってもなかったので、『愛菜ちゃんと一緒に出られるようなレベルになったんだ』みたいな感じ。レベルは全然下なんですけど、もっと頑張っていきたいと思いました」

姉のゆは菜（左）と写真に納まる幼少期の横井きな結（本人提供）

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