松生理乃「自分にも強みが…」公式練習で跳び続けたジャンプ、葛藤の先に手にしたもの

フィギュアスケート女子の松生理乃(20=中京大)がGPシリーズ第2戦のスケートカナダで2位となりました。ショートプログラム(SP)では52・31点で10位にとどまりましたが、フリーでは1位の139・85点をマーク。一気に巻き返し、GPシリーズで自己最高位につけました。

なんで自分はできないんだろう―。

フリーでの会心の演技に至るまでには、大舞台でなかなか力を発揮できない自分自身に思い悩む日々がありました。

ジュニア時代から大切にしてきた競技観に、フリー当日の公式練習の姿を重ね合わせながら、その心の揺れ動きを描きます。

フィギュア

スケートカナダ女子フリーの演技を終え、笑顔を見せる松生理乃(共同)

スケートカナダ女子フリーの演技を終え、笑顔を見せる松生理乃(共同)

「そう考えてしまう自分も嫌いで…」

なんで自分はできないんだろう―。

そう問いかけながら生きている人は、少なくないかもしれない。

真面目にやってきたはずなのに、誰よりもやってきたはずなのに、と。

松生もそう感じてきた1人だった。

「『これだけ練習したけれど、やっぱりあの練習は意味がなかったのかな』と考えてしまいます。そう考えてしまう自分も嫌いで、そこで力が発揮できない自分も嫌だなと思ってしまうことが多くて」

報われないと、心のどこかで自己否定に走ってしまう。

そんな自分が嫌にもなった。

練習の積み重ねが信条も…結果に結びつかない日々

本格的に競技を始めた9歳のころから、愚直に練習を積み重ねることが信条だった。

ジュニアのころには、毎夜3時間近くの練習を欠かさなかった。ショートプログラム(SP)とフリーを、それぞれ2回ともミスなく完遂できるまで練習し、歩けなくなるまで滑り続けたこともあった。

だからこそ、ダブルアクセル(2回転半)を2年がかりで習得することができた。世代のトップ層へと駆け上がることもできた。

「もしかしたら、多少はサボっても、跳べちゃう子はいるかもしれないです。それも才能だとは思うんですけど、私は全くできなかったので。練習通りの結果が出ちゃうタイプでした」

ただ、2021年秋に右足首を捻挫して以降は、練習が実を結ばないことが多くなった。

2021年全日本選手権、女子フリーで演技する松生(撮影・垰建太)

2021年全日本選手権、女子フリーで演技する松生(撮影・垰建太)

同年の全日本選手権で7位となって北京五輪の出場権を逃すと、翌2022年の全日本は13位へと後退。2023-24年シーズンはスケートカナダで3位と復活の兆しを見せたが、全日本ではSP、フリーともにジャンプの転倒があり、17位にとどまった。

練習では好調だっただけに、堪(こた)えるものがあった。

2023年スケートカナダ女子フリー後、会見場で会った松生(右)は坂本と抱き合った(撮影・阿部健吾)

2023年スケートカナダ女子フリー後、会見場で会った松生(右)は坂本と抱き合った(撮影・阿部健吾)

「(23年の)全日本は今までで1番と言っていいくらい自信があって。その分、より悔しくて、『あぁ、なんでなんだろう』という思いが大きかったです。『やっちゃたんだな』ということを理解するのにも、立ち直るのにも時間がかかって。(フリーの)演技が終わってすぐは唖然とした感じで、何が何なのかよく分からなくて」

後半シーズンの国際大会への出場を狙っていたが、結果は遠く及ばなかった。

大会が終わったという実感すら湧かなかった。

「あの子はできているのに…」他の選手を羨むことも

ここぞの場面で力が発揮できない自分を、ふがいなくも思った。

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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。